テニス
□タイムカプセル
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タイムカプセル
中学を卒業して、高校も卒業して。
俺は皆より先に社会人になった。やりたい事もなりたい物も無かった訳では無いけど、なんとなく面倒だった。勉強も部活以外の団体行動も嫌いで早く煩わしい事から離れたいと思ったから。まぁ蓋を開ければ社会に出て働く大人達の付き合いも学校生活のソレと何ら変わりはなかったけども。
「俺、来週中学の同窓会なんだよね」
「そーなんすか」
所謂ショップ店員、それが今の俺の仕事。アルバイトから始めて何やかんやで社員になれた訳だし意外に向いてるのかも知れない。そして平日のこの暇な時間に店長の世間話に耳を傾ける。
「そうそう、俺もう28だし15年ぶりの再会。なんかタイムカプセルとか掘り返すらしいわ」
「タイムカプセル…、俺やってないですよ。それドラマとかだけでやる事やなかったんすか?」
「えぇ?!普通するでしょ、卒業の時」
そうなん?頭に疑問を浮かべながら振り返ってみる。中学卒業の時、立海は中高エスカレーターで卒業ってのは一つの区切りみたいな…、皆バラバラになる訳じゃないからそんな発想すら無かった。高校の時は?友達と言えば部活の仲間で、それなりに各々が自分の道に進んだが地元に残ったブン太と赤也には今でも月イチぐらいで飯に行くし。地元を出た奴らも季節毎に帰ってくれば会うし。
タイムカプセルなんて、十年単位で会わない者同士の行事なんて俺らには必要無い物と誰からも提案がなかった。
「まぁ頻繁に会うならアレだけどさ、なんか良いじゃん。タイムカプセルとかワクワクしない?俺、たまーに思い出すんだよ埋めた時の事とか。掘り返すのなんてずっと先だと思って待ち遠しいと思ってたと思うんだけど」
そう言って言葉を区切った店長は、何かを懐かしんで思い出している表情で俺に笑顔を見せた。
「そんな15年って言う長い楽しみが来週、やっと実現するんだぜ?済んでみりゃ早いもんよー。気付いたら俺もオッサンだもんな」
そして、何入れたっけ、自分宛の手紙とか書いた気するけど何書いたか覚えてねーと楽しげに喋る店長に俺は少し羨ましい気持ちになった。
変わらず頻繁に会う仲間達も着実に歳は重ねて行くわけで。高校を卒業して2年、あれだけ毎日会っていた部活仲間と月イチに会うのが普通、地元を離れた奴らには年に1回でも会えれば良いなんて自分は変わってないつもりでも多少の変化はあるらしかった。
変わりたくない、でもあの頃の壗ではいれない。
俺は仕事帰りの寒い道を歩きながらメールを打つ。7人へ一括送信。
春に、タイムカプセル埋めませんか?
20110308
どうせ変わるなら思い出だけでも形を変えずに的な仁王。