小説
□物語の少女
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始まりは、500年も昔に溯る。
平和だった世界は、ある日二つに引き裂かれた。
一つは、リスタブル帝国。
一つは、ムイル王国。
両国はその日を境に、互いに争ってきた。
それは500年経った今も、変わらない――
piece 1
ムイル王国。
首都をナタリオとし、世界の半分を統治する王国。
そのナタリオにある王城は、いつになく喧騒としていた。
「いた!あんな処に!!」
一人の侍女が声を上げ、周りの使用人達は彼女が指さした庭を見る。
庭には一面に色とりどりの花が咲き、丁寧に手入れされているのが見て取れる。
使用人達は、慌てて庭に駆けだす。
その美しい庭の中心には、栗色の髪を風に揺らす一人の少女が座っていた。
「姫様!!」
息の切れた声にくるりと振り返るのは、現国王紅雷の一人娘――晴瀬。
彼らの慌てた様子を見て、晴瀬はきょとんとする。
「皆さん、どうしたんです?」
「姫様がお部屋にいらっしゃらないから、皆で捜していたんです!さぁ、外は危ないですからお部屋に戻りましょう!」
「大丈夫ですよぅ、ここだって敷地内なんですから」
「そんなこと言われても困ります!」
「どうして?」
解りきったことを訊かれ、戻る気など全くない彼女に使用人達は困り果てる。
だからといって、大切な姫君をこのままにはしておけない。
どうしようかと頭を悩ませていると、
「ワガママ言っちゃダメですよ〜、お姫様ァ」
飄々とした声が投げかけられた。
使用人達が横に避けて、奥から小さく欠伸が聞こえた。
現れたのは、赤と黒の近衛兵団の団服をだらしなく着こなした赤髪の青年。
青年は晴瀬に歩み寄るなり、見上げる彼女の頭をぐりぐりと撫でまわす。
「ほら、大人しく戻りな。みんな明日の準備で忙しいんだからさ」
なっ、と青年が笑いかけるが、晴瀬はその手が気にくわない。
「鮫月!いい加減子供扱いしないでください!!」
「15なんてまだまだ子供だろ〜」
「明日で16です!立派な大人ですよ!!」
「大人ならワガママ言わないの」
言い返すことが出来ず、晴瀬はむっとむくれる。
そんな彼女の手を取って、鮫月はニッと笑った。
明日、晴瀬は16歳を迎える。
ムイル王国では16歳で成人と認められ、その日は盛大な成人の儀を執り行う事になっている。
城に仕える者は皆、その準備に追われていた。