小説

□午後11時
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「…やっぱり眠れない」


晴瀬は、布団の中で呟いた。
目を瞑っても、羊を数えても、眠たくないと眠るに眠れない。
薄暗い中目を凝らして、時計を確認する。

時刻は、11時。

もう一時間経ったのか、と少し驚いた。


「一時間頑張っても眠れないんだから、また頑張ったって眠れないよね」


諦めに似た言い訳を吐いて、晴瀬はベッドから出る。
机の小さなランプを付け、あの読みかけの本を手に取った。

しおりを挟んだページを開けて、意識を物語へと集中させた時、

ジリリリリリ

城の警報が鳴り響いた。


「な、何!?」


今まで無い事態に、晴瀬は立ち上がる。
本を無造作に机に置いて、部屋の扉を開けた。


「姫様!?」

飛び出してきた晴瀬に驚く衛兵達。
晴瀬は、構わず彼らに問いかけた。


「今の音、なんですか!?」

「今のは警報です。恐らく何者かが侵入してきたのではと…」

「侵入者!?じゃあ、父上を狙って…!?」

「とにかく、姫様は部屋にお戻りください!国王様の処にも兵がおります!」


奥へと向かおうとする彼女の腕を、衛兵が掴む。


「嫌です!父上が危ないんでしょう!?こんな処でじっとしてなんか…っ」

「危険かもしれない場所に、あなたを行かせる訳にはいきません!もしかしたら姫様が狙いなのかもしれないんですよ!?」

「だったらなんですか!私なんてどうだって…」


ドサリ
静かに、衛兵が崩れ落ちる。
それはとてもゆっくりで、スローモーションのようだった。


「え……?」


状況を理解できずにいる晴瀬の眼前に、"影"が姿を現す。
"影"は晴瀬の細い首を掴み上げた。


「がっ…は…っ」

「お前がハルセか?」


窓から差し込む光が、"影"を照らしだす。
"少年"の闇のような瞳が、鋭く光る。


「もう一度訊く。お前がこの国の姫、ハルセか?」

「…そう、ですよ…。あなた、は…?」

「…俺は、リスタブル帝国軍の者だ。お前を殺しに来た」


少年は、生気のない瞳に晴瀬を映す。
その声は氷のように冷たい。


「あなたが、私を殺しに…?父上…は…?」

「紅雷か。国王は俺達の標的じゃない」

「そ、う…よかった…」


ふっと笑みをこぼす晴瀬に、少年は眉をひそめる。


「…とにかく、俺はお前を殺す。他人の心配など…」

「…あなた、は…とても哀し、そ…ですね…?」


少年の言葉を遮って、晴瀬は何故か辛そうに言った。


「ど…して、そんな哀しそ…なんですか…?」


少年には、彼女が言っている意味が解らない。

哀しそう?俺が?
何を言い出すんだこの女は。
俺にはもう、何も…


「…どうして、泣いてるの…?」


辛そうに顔を歪めて、晴瀬は少年の頬にそっと触れる。
彼の頬は、あたたかな滴が濡らしていた。


「涙…?」


少年自身、その事に驚きを隠せない。
何故自分が泣いているのかなど、全く解らない。
 
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