小説

□午後11時
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「あなた…ほんとは、嫌なんでしょう…?」


晴瀬は、少年の濡れた頬をそっと手で包み込む。


「ほんと、は…誰も傷つけたくないんで、しょ…?」


掠れたあたたかい声が、少年の心に染み込む。
少年の手から力が抜け、晴瀬は解放された。


「ケホっ…っ…」


喉を押さえて咳こむ晴瀬の前に、少年は立ちすくむ。


「あ…」

「お下がりください姫様!!」


後ろから飛んできた声に驚いて振り返ると、晴瀬の横を赤い風が通り抜けた。
瞬間、少年を鮫月が取り押さえる。


「鮫月…!?」

「怪我はないか?姫」


鮫月は口元だけに笑みを浮かべて、少年を見下ろす。
少年は無言のまま、抵抗すらしない。


「姫様っ…」

「私は大丈夫です。他の人達はどうですか?」

「重軽傷者が数名です!」


兵達の報告に、ほっと息を吐く。
取り押さえられた少年が、ぽつりと声を漏らした。


「俺のツレは…?」

「あいつらなら捕まえた途端、自ら舌を噛んだよ」

「…そうか」

「お前は死ぬなよ?これからたっぷり情報吐いて…」


少年の上に跨ったままの鮫月の背中を、晴瀬が蹴り飛ばした。


「やめなさい鮫月!」

「った!!」


反動でバランスを崩して、鮫月は少年の上から崩れ落ちる。
呆然と見上げてくる少年の前に、晴瀬はしゃがんで目線を合わせた。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……?」

「兵が手荒な真似をしてすいません」


にっこりと微笑む彼女に、少年や鮫月達は眼を丸くする。


「姫…?何やってんの…?」

「私、決めましたっ!」


嬉しそうに少年の手を取って、晴瀬は弾んだ声で言う。


「あなた、私の側近になりませんか?」

「はぁ!?」









姫と暗殺者

君と初めて逢ったのは

月の綺麗な夜だった

 
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