小説
□午後11時
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闇にまぎれ、蠢く影。
「おい、配置についたか」
さすがに敵国になると電波が悪い。
"味方"の声に、ノイズが混じる。
『こっちは…ザザッっけーだ』
「…こっちもだ」
ノイズは少々邪魔だが、だいたいは解る。
"敵"に見つからないよう辺りを窺いながら、言葉を返す。
「…もうすぐだな」
少年は、呟いた。
piece 2
「おっ、もうこんな時間」
壁にかかった時計を見て、鮫月が驚いたように言う。
時計の針はもうすぐ10時をさす。
「もう寝る時間だ」
「えー、まだ眠くないですよ」
「そう言ったって、明日は大事な日だし。寝坊はカッコ悪いぜ?」
にっと笑って、鮫月はむくれる晴瀬を宥める。
「ほら、さっさとベッドに入る」
「子供みたいに言わなくても、ちゃんと入ります!」
「俺からすればまだまだ子供〜」
それでは歳が縮まらない限り、いつまで経っても子供ではないか。
しかし、歳が縮まることなど普通ありえない。
晴瀬は更にむくれたまま、布団にもぐる。
「…鮫月は、明日どこに居るんですか?」
「ん?そりゃ姫か国王様の近くだよ」
「明日、父上はプレゼントは何をくださるか知ってますか?」
「さぁな〜。今知っても面白くないだろ」
「…そうですね」
ふっと笑みをこぼす彼女の髪を、鮫月はそっと撫でた。
「おやすみ。よい夢を」
「おやすみなさい」
晴瀬が瞼を閉じたのを認めて、鮫月はベッドから離れる。
電気を消せば部屋は闇に包まれ、カーテン越しに月が輝く。
大きなドアをそっと開けて、部屋を出た。
「お疲れ様です!」
「オツカレ。今夜も頑張ってね」
両側に立つ衛兵達と言葉を交わして、王城のさらに奥へと足を向ける。
転々と照らす明かりは、時間も時間で必要最低限の光しか灯っていない。
ふと、気配を感じて窓の外を振り返る。
「……今、気配が動いたな…」
窓の外では木々が風にざわめき、月が闇をおぼろげに照らす。
「…少し急ぐか」
呟いて、少し足を速めて奥へと進む。
彼が向かうのは、国王の許。