小説

□午後11時
1ページ/3ページ


闇にまぎれ、蠢く影。


「おい、配置についたか」


さすがに敵国になると電波が悪い。
"味方"の声に、ノイズが混じる。


『こっちは…ザザッっけーだ』

「…こっちもだ」


ノイズは少々邪魔だが、だいたいは解る。
"敵"に見つからないよう辺りを窺いながら、言葉を返す。


「…もうすぐだな」


少年は、呟いた。









piece 2









「おっ、もうこんな時間」


壁にかかった時計を見て、鮫月が驚いたように言う。
時計の針はもうすぐ10時をさす。


「もう寝る時間だ」

「えー、まだ眠くないですよ」

「そう言ったって、明日は大事な日だし。寝坊はカッコ悪いぜ?」


にっと笑って、鮫月はむくれる晴瀬を宥める。


「ほら、さっさとベッドに入る」

「子供みたいに言わなくても、ちゃんと入ります!」

「俺からすればまだまだ子供〜」


それでは歳が縮まらない限り、いつまで経っても子供ではないか。
しかし、歳が縮まることなど普通ありえない。
晴瀬は更にむくれたまま、布団にもぐる。


「…鮫月は、明日どこに居るんですか?」

「ん?そりゃ姫か国王様の近くだよ」

「明日、父上はプレゼントは何をくださるか知ってますか?」

「さぁな〜。今知っても面白くないだろ」

「…そうですね」


ふっと笑みをこぼす彼女の髪を、鮫月はそっと撫でた。


「おやすみ。よい夢を」

「おやすみなさい」


晴瀬が瞼を閉じたのを認めて、鮫月はベッドから離れる。
電気を消せば部屋は闇に包まれ、カーテン越しに月が輝く。
大きなドアをそっと開けて、部屋を出た。


「お疲れ様です!」

「オツカレ。今夜も頑張ってね」


両側に立つ衛兵達と言葉を交わして、王城のさらに奥へと足を向ける。
転々と照らす明かりは、時間も時間で必要最低限の光しか灯っていない。

ふと、気配を感じて窓の外を振り返る。


「……今、気配が動いたな…」


窓の外では木々が風にざわめき、月が闇をおぼろげに照らす。


「…少し急ぐか」


呟いて、少し足を速めて奥へと進む。
彼が向かうのは、国王の許。
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ