小説

□戦慄
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「とりあえず今日は寝ましょう!夜も遅いですし」

「それ今俺が言った」

「うるさいです」


ニコニコと笑顔を浮かべる姫と、ブーと口を尖らせる兵。
少年は奇妙な光景に眼を丸くした。


「これからは私の隣の部屋を使ってください。案内しますね、…えっと…」


そこで、晴瀬はまだ名前を聞いていたなかったことを思い出す。


「あの、名前は?」

「え…あぁ、(リツ)だ」

「慄、ですね」


確かめるように呟いて、慄の手を引いた。


「行きましょう!」

「え、あ、おい!」


だだだっと晴瀬は急に走り出す。
慄も手を引っ張られ、少し戸惑いながらもついていった。


「いやー、微笑ましいねぇ」


それを見送って、鮫月がニマニマしながら呟く。


「おっさんみたいですよ、鮫月殿」

「はっはっはー、ちょっと傷ついたなぁ?」


黒い笑みを浮かべた彼に、兵の者はヒッっと短く悲鳴を上げる。


「す、すいません!」

「こらこら鮫月。あんまり苛めるんじゃないよ」

「はぁい」


紅雷が苦笑混じりに言い、鮫月は手をヒラヒラと振ってつまらなさそうに返事をする。


「そういえば、さっき何を頼まれたんだい?」

「姫にですか?…あぁ、ほんと迷惑極まりないですねぇあの姫さんは。お人好しもいいところですよ」


苦々しい顔をして、彼女の声がする部屋の扉を見つめる。


「墓を作ってほしいそうですよ」

「墓?」

「あのガキの仲間のです」


言って、鮫月は少しばかり後悔の念にかられた。


『あいつらなら自ら舌を噛んで死んだよ』


姫の前で言うべきじゃなかったなぁ…
あーあ、俺のばか…またいらない仕事が増えた…









そして幕開け

斯くて物語の役者は出揃った

 
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