あなた日和
□夕陽に染まる
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連れてこられたのは、体育館裏。
ベタというか、捻りがない。
中庭みたいに誰も来ないし、みんなから死角になるからちょうどいいんだろう。
「あたし達、中村さんと一対一で話したかったんだよね」
「中村さん、いつも誰かと一緒に居るからさ」
そっちが三人の時点で、もう一対一じゃないのに気づいてないのかな。
私は壁を背にして、素直に女子に囲まれる。
女子は追いつめたと思ったのか、ほくそ笑んだ。
「単刀直入に言うけどさ。あんた、一体何なの」
ほら、始まった。
「いきなり岡崎くんに近づいて、生意気なんだよ」
「安藤が居なくなったからって誰かに構ってもらおうとすんな!」
「岡崎くんは優しいから、仕方なく相手してあげてるだけだよ。じゃなきゃ、あんたみたいな目立たない娘なんか」
「勘違いしてんじゃないの?」
一人の女子がそう言えば、他の奴らはケラケラ笑う。
「解ったら、もう消えてよ」
…うるさいな。
どっかの部活の掛け声も、
吹奏楽部の合奏も、
いつもは聴いてて楽しいのに。
あんたらのせいで、全部台無しだ。
「言いたい事は、それだけ?」
「はぁ?」
「じゃあ、私の番だね」
女子達は、意味が解らないって顔してる。
意味が解らないのはこっちだっての。
「いきなり岡崎に近づいて、あんた達からすれば目障りなのは解ってる。私があいつに似合ってないのもさ」
ムカムカする。
「でも、今のは間違ってるでしょ。真紀は居なくなってなんかないし、私は勘違いなんかしてない」
液体が沸騰したみたいに、体中が熱い。
「確かに、あいつとはたった何日かの付き合いだよ。あいつの事、私はなんにも知らない。でも、私はあいつをちゃんと解ってる」
岡崎は、多分底なしの馬鹿だ。
お人好しで、私なんかの立場も考えてくれて。
私と付き合うフリすることで、面倒事に巻き込まれてるのに気づいてないんだ。
毎朝迎えに来てくれるし、チャリ漕ぐ時も私が落ちないように気遣ってくれる。時々ジュースも奢ってくれる。
知ってることなんて、ほとんど無いけど、
解ってることは、たくさんあるよ。
「勘違いしてんのは、あんた達だよ」
パン
風船が弾けたような、一瞬の音。
一拍遅れて頬に伝わる、じんじんとした熱。
「生意気だって言ったばっかりじゃん。頭悪いんじゃないの?」
どうやら、私は彼女を怒らせてしまったらしい。
名前も知らない彼女は、思いきり私の腹を蹴った。
鈍い衝撃と何かが上に上ってくる感覚がして、私は崩れるように膝をつく。
「あたし達が何を勘違いしてるのよ」
「…こんな事したって、なんにもならない。あんた達にあるのは、デメリットだけ。私が消えたって、岡崎はきっとあんた達なんか見ないよ」
彼女達の目が、冷たく光る。
「まぁ、私が消えるなんてありえないけど」
耳障りな音と、息が止まるような痛みが重なる。
…いつだったかな。
真紀に注意されたな。
あの時も思ったけど、今も同じことを思った。
真紀、ごめん。
私、やっぱり無理だわ。
あんたが言ったみたいに、私は敵を作りやすいらしい。