あなた日和

□人混みに紛れる
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そんなこんなで土曜日。
あぁ、どうしよう。落ち着かない。

もうすぐで、岡崎が迎えに来るって言ってた時間。
自分でもびっくりするぐらい緊張してる。


「あれ、藍空。出掛けるのか?」


父さんがリビングに下りてきて、不思議そうに言う。
娘が出掛けるのがそんなに珍しい?
ていうか、なんでこういう日にばっか起きてるんだろう。いつも寝てるクセに。


「うん、もうすぐ出る」

「…もしかして、彼氏とデート?」

「…うん」


沈黙。
…なんだこの空気。
私は正直に言っただけなのに。

正直っていうか、彼氏ではないけど。


「…藍空」

「なに?」

「その岡崎くんは、いい子なんだよね?」

「普通にいい奴だけど?」


何この質問。
いい奴じゃないのに付き合うと思ってんのかな。
もっと娘を信じなよ。


…ピーンポーン

やっと来た。


「じゃ、行ってきます」

「藍空!まさかお泊まりとかじゃ」

ないから。


あんまりしつこいから、思いっきりリビングのドアを閉めてやった。
思った以上に音が出てビックリしたけど、特に気にせずに玄関に向かう。
いざ出ようとした時、急に不安になった。

へ、変じゃないかな…

私服で会うのは初めてだし、そう考えたらよけいに緊張する。
もしかしたら服装より、私自身が変かもしれない。

別に、本当の彼氏との初デートじゃないのに。
ありえないくらい意識してる。

男友達と遊ぶくらいの感覚でいいはずなのに。
岡崎を友達だと思えない自分が居る。

どうしちゃったんだ、私。


ピーンポーン

二度目のインターホンの音で、ハッと我に返る。
私がぐずってるから、岡崎を待たせてた。
慌ててドアを開けて家を出た。


一瞬、誰か解らなかった。
いつもみたいにチャリに跨った岡崎と、眼が合う。


「お、おはよ…っ」

「おはよ」


あ、また私変だ。
ただの挨拶なのに、声がどもった。

私服の岡崎は制服の時と雰囲気が違ってて、でもすごく岡崎の雰囲気に合ってて。
なんていうか、カッコいい。

岡崎はじっと私を見たまま、何も言わない。
体温がぐっと上がる。

やっぱり、変だったかな…


「…藍さ」

「な、なに?」

「私服可愛い。すごく似合ってる」


にっと笑う岡崎に、更に体温が上がる。
絶対今顔赤い。


「お、岡崎も似合ってる。…カッコいい」

「マジで?ありがとう」

「うん」


そんな無闇に笑わないで。
こっちがもたないよ。


「ほら、乗って。電車遅れる」

「あっ、うん」


私がいつもみたいに荷台に乗って掴まれば、岡崎はいつもと反対方向の駅に向かって漕ぎだす。

いつもと違う服装。
いつもと違う景色。
いつもと違う時間。

たったそれだけなのに、緊張してうまく喋れない。

触れた背中から伝わってくる体温みたいに、
私のうるさい心音が伝わってないといいけど。
 
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