あなた日和

□人混みに紛れる
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「うわ…」


電車を降りて駅を出れば、見渡す限り人、人、人。

土曜だからって、みんな出掛けようとかよく思うよね。
そう言う私も、はたから見ればデートしてるカップルなんだろう。


「さすがに人多いね」

「うん…」


人の熱気とかでムシムシする中を、一生懸命はぐれないように岡崎を追いかける。
まだ、岡崎の背が高い方なのがせめてもの救い。
人混みの中でも見失いにくい。


「いっ…」


誰かに足を踏まれた。
ぐらりとバランスが崩れて、前のめりにこけそうになる。

でもその寸前で、ぐっと誰かに引っ張られてなんとか持ちこたえた。


「セーフ…」

「岡崎…ありがと」

「どういたしまして」


またにっと無邪気に笑って、岡崎は映画館の方へ歩き出す。
私の手を握ったまま。


「岡崎っ、手…!」

「これだったらはぐれないだろ」

「そう、だけど…」


これじゃ、本物のカップルみたいじゃん…

言葉を濁らせると、岡崎は少しだけ振り向いて、


「手繋ぐの、いや?」


そんな事言われたら、どうやったって首を横に振るしかない。
だって、心の奥で喜んでる私がいるんだもん。


「嫌じゃ、ない…」


岡崎は一瞬安心したような表情を見せて、また前を向く。
私は少し前を行く岡崎に引かれて、人混みの中を進んだ。

私の手を包み込んだ大きな手が、岡崎は男なんだと再認識させる。
治まってた心音がまたうるさくなって、繋いだ手が熱を持つ。

最近、変だ。
本当に私…どうしちゃったんだろう。









体温上昇中。

((手汗、大丈夫かな…))


((勢いで手繋いじゃったけど))

((俺の心臓もつか…?))

 
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