あなた日和

□ある土曜日の昼下がり
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時刻は2時。
昼時が過ぎた事もあって、店内はそこそこ空いてる。


「藍、何食べる?」


レジの上に並んだメニューを見ながら、岡崎が訊いてきた。
私は、その中で美味しそうなのを適当に指さす。


「あれかな」

「おー、っぽいな」

「何それ。馬鹿にしてんの?」

「極上の褒め言葉だよ」


いつぞやの私の言葉を返してきた。
言っとくけど、それの著作権は私にあるんだから。


「あ、藍。席取っといて。後で行くから」

「あーい」


確かに、二人いるのに二人とも並んでるのは効率が悪い。
岡崎が終わってから、後で注文しに行こう。

店内を見回して、二人用の小さめの席が空いてるのを見つけた。
二人だし、別に小さくてもいいよね?

レジに近い方の席に鞄を置いて、私はその向かいの席に座る。
あぁ、お腹空いた。


「あ、いた」


声のした方を見ると、岡崎がお盆を持ってこっちにやってくる。
私は鞄を取って、岡崎に座るように促した。


「はい」

「?」


注文しに行こうとした私に、岡崎が包まれたバーガーを差しだしてくる。
意味が解らなくてそれをじっと見ていると、もう一度岡崎が言いなおす。


「はい、藍の」

「あぁ、私の。…私の?」


お盆の上を見ると、他にももう一個バーガーがあって、ジュースとポテトも二個ずつある。


「…岡崎、そんなに食べんの?」

「は?」


現実逃避で呟いた言葉を、きょとんとした顔に否定された。
私は慌てて席に座って鞄を漁った。でもなかなか財布が出てこない。


「払う!」

「え?」

「私の分払う!いくら!?」


何故か奥の方に入っていた財布を取り出すと、岡崎が私のバーガーをお盆の私側置いた。


「いいよ、そんな高い訳じゃないんだし」

「無理!払う!」

(無理って…)


払う気満々でいると、苦笑された。なんで?


「デートなんだからさ。こういう時は男が払うもんなんだって」


…デート?

たった三文字のワードに、かあっと顔が熱くなる。
何言ってんのこいつ。
やっと慣れたきたのに、また意識しちゃう。

すぐデートじゃないって否定すればいいのに、それすらもできない。


「いつも藍には弁当作ってもらってるし。いいだろ?」

「……じゃ、じゃあ…ゴチになります…」

「どうぞ」


なんなんだ、本当に。

なんでそんな嬉しそうに笑うの?
あんたは私といるから損してるんだよ。

なんでそんなに優しくするの?
私はあんたの優しさを利用してるかもしれないのに。

なんでこんなに緊張してんの?
岡崎は、ただの友達だよ。


ただの、友達だよ。
 
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