あなた日和

□ある土曜日の昼下がり
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「仕方ないからここ行く?」


そう言って岡崎が指さしたのは、ゲーセン。
他に時間潰すとこもないし、と私は同意した。
自分達の無計画さが悔やまれるね。


「あ、あれ可愛い」

「どれ?」

「あれ」


クレーンゲームの中の、ピンクと白のパンダのぬいぐるみ。
現実的にはありえない色だけど、可愛いから全然許せる。


「藍ってパンダ好きなの?」

「うん。一番可愛い生き物だと思う」


やばい。めちゃめちゃ可愛い。
でも、そんな魅力に私は負けない!

私のゲームの下手さは真紀のお墨付きなので、というか自覚は充分してるので。
前クレーンで5000円程使ったけど、結局何もゲットできなかったっていうね。
そして兄さんに馬鹿にされたっていうね。悲しい思い出があるんだよ。

でもこの子、ありえないくらい可愛い。
目ぇくりくりしてる。

きっと他人からは不審人物に見えるんだろな、なんて頭ん中で考えながらケースに貼りつく。
未練がましいよ…私。


「…やらないの?」

「やらないんじゃなくて、やれないんだよ」


不思議そうな岡崎に、パンダを見つめたまま答える。
こうやってたら、念力かなんかで落ちてくれないかな。


チャリン
不意に隣から小銭の音がして、半ばびっくりしながらそっちを見る。
そしたら岡崎が、何故か鼻歌まじりにクレーンゲームをやってる。ほんとに何故?


「お、おかざき?」

「まー見てなって」


得意げな岡崎に何も言えずに、またケースの中に目を戻す。
そしたらクレーンが私が片想い中のパンダを捕まえた…え?マジで?

ガコン
からくり的な音と一緒に、下の取り出し口からパンダが出てくる。
それを手にとって、岡崎はにっと笑った。


「いえーい」

「…マジで何者なの」

「ほら、俺よくゲーセン行くから結構プロだと思うよ」

「ほらって、知らないけど」


私が岡崎の事で知ってる事なんて、ほとんど無いと思う。
そう思うと、何故か胸の奥が重たくなった。


「まぁいいじゃん」


でも岡崎の笑ってる顔を見ると、そんなのどこかに吹っ飛んで。


「ぷれぜんとふぉーゆー」


ふわふわした白桃パンダは、私の手の中。
やばい、すごい可愛い。


「…ありがと」

「どーいたしまして」


なんか、ありえないくらい嬉しい。
ゲーセンで見つけたパンダと両想いってだけで、こんなに嬉しいもん?


違う。絶対違う。
よくは解んないけど、正解かなんてもっと解んないけど。


――岡崎がくれたから、だよね…?


「なに、そんなに嬉しいの?」

「…うん。かなり」


ある土曜日の午後。
私はとても重大なことに気づいてしまった気がします。









片想い中

(プリクラ撮っとく?)

(えっ、いいの!?)

(え、ダメなの?)

(違っ…と、撮ろう!)

 
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