クレイジー☆ベイビー
□これは違う
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冗談ともとれる言葉をかけるが、少年は規則正しい寝息を繰り返すだけで起きる気配はない。
仕方なく夏芽はもう一度周囲を見回すが、やはり皆通り過ぎていくだけで改めて他人の冷たさというのを確認しただけだった。
「どうすっかな…」
この近辺には交番もなく、どこかのデパートなどのように「迷子センター」があればいいのだが生憎ただの公園にそんな設備はない。
夏芽が頭を悩ませている間にも、時計の針は時を刻み、少しずつ人影は薄れていく。
「ちょっと、起きなって。物騒なんだからさ、マジ誘拐されるよ」
前回よりも強く揺すってみたが、特に効果は表れず少年の瞼が開く事はない。
一瞬死んでいるのではという思いが頭をよぎったが、等間隔に聞こえてくる寝息と温かい体がそれを否定してくれた。
仕方ない。
夏芽は、その少年を抱きあげた。
近くに手頃な場所でもあればよいのだがそんなものはなく、こんな場所に放置しておく訳にもいかない。
夏芽は少年を器用に背負うと、鞄の中からメモ帳とボールペンを取り出した。
男の子、預かってます。
特徴↓
・黒髪
・白い半そでのTシャツ
・カーキ色の半ズボン
それらに自身の連絡先を書き綴り、メモ帳から切り離した。
「…誘拐じゃないから。これは違う。預かるだけだからね」
誰かにそう呟いて、その紙きれをイチョウの樹の根元に小石を乗せて置いた。
よっ、と少し跳ねて少年を背負い直すと、背中に彼の小さな心音が伝わってくる。
「お前、寝起き悪いねー。お母さんは大変だ」
クスクスと笑いながら声をかける。
しかし当然のように、返ってくるのは言葉ではなく寝息。
そのことにすら、何故だか笑えた。
左手で少年を支え、右手で自転車を押す。
暑さが倍増されたような気さえ起こし、なんとも不格好な絵面だが、夏芽は悪くないと思った。
はじまりはじまり
夏の暑さが残りまくる秋
ありふれた日常に、君は現れた