クレイジー☆ベイビー
□ひつよーなもん?
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「…ぶかぶか」
「見りゃ解るよ」
少年の頭をタオルで拭きながら、夏芽は苦笑する。
二人とも汗をかき身体中気持ち悪かったので、とりあえずシャワーを浴びた。
その時に汚れた少年の服も洗濯機に放り込み、彼には夏芽の一番小さなTシャツを着せたのだが、やはりサイズが大きすぎる。
肩は露出し、裾は膝まで伸び、少年は動きにくいと言わんばかりに眉を寄せている。
「仕方ない。明日必要なもん買いに行こう」
溜息混じりにそう言えば、少年は「ひつよーなもん?」と首を傾げる。
「まず服。そんで歯ブラシとかそうゆーの」
適当な物を例にあげると、少年は理解したようで「わかった」と一言頷いた。
「あ、そだ。お前名前は?」
何故今まで気にならなかったのか、自分でも不思議だ。
冷凍庫から先日買ったアイスバーを手渡しながら夏芽が訊くと、少年はきょとんと眼を丸くする。
「名前って?」
「は?」
まさか。夏芽は、まるでバットで殴られたような衝撃を受けた。
いくら子供であっても、"名前"を知らない子供が先進国と呼ばれる日本に居るとは思ってもみなかった。
どう説明すればいいのかと頭を悩ませ、夏芽は視線を漂わせる。
「あーっと…そうだ、他の人がお前を呼ぶ時、なんて呼んでた?」
すると、少年は少し悩んだ素振りを見せ、
「128」
と、不思議な数字を吐きだした。
カキーン。今度は、サヨナラホームランを打たれた気分だ。
「…それ、名前か?」
「みんなぼくのこと呼んでたよ、128って」
「…イジメ?」
例え彼が日本人でなかったとしても、名前に算用数字をそのままシリアルナンバーのように付ける国など聞いたことがない。
しかし彼を見る限り嘘とは思えず、イジメという言葉を知らないのか疑問符を浮かべている。
そんなまさか。
という彼女の思いを彼は悉く打ち砕き、残る選択肢はそれを受け止めるといった、なんとも馬鹿げたものだった。
「…よし、それは呼びにくいから、私が名前を付けてやろう」
かっこいーの。
そう付け足すと、少年の目が輝いた。
「なに?なに?」
「そう慌てなさんな。今考えてっから」
夏芽は頭の中で思いつく限りの名前を出し、そして友人などの名前を消していく。
かぶると、いろいろと面倒だからだ。
うーん、と彼の頭を撫でまわしていた夏芽の手が、ピタリと止まる。
「…流ってのはどう?」
「りゅう?」
「なんか涼しげじゃん」
それはただの彼女の要望なのだが、少年は気に入ったのか何度もそれを復唱する。
「りゅう、流、りゅー」
「なに、気に入った?」
「うんっ」
無邪気なその笑顔は、少年そのもので。
夏芽も、つられるように笑みをこぼした。
「じゃ、お前は今から流な」
流れ着いた場所
(よし、飯にするか!)
(メシ?)
(…晩ご飯にしようか)