クレイジー☆ベイビー

□あれ!
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ゆさゆさと、思考を遮るように揺さぶられ、夏芽はうっすらと眼を開けた。


「なつめ、なつめ」

「んー…」


未だぼやけた視界に映るのは、自分を見下ろす少年。
電気を消した薄暗い部屋の中では、いまいち彼の表情を読み取ることができない。


「りゅー…なんだこんな時間に…」


眩しい携帯の画面を眼を細めて見れば、時刻は02:18と表示された。
眼を擦り、睡魔と闘いながら起き上がる夏芽を、流はそわそわとした様子で見つめる。
くあっと夏芽が一つ欠伸をすると、流は言った。


「おしっこ」









crazy 3









「ごちそーさまでした」


夏芽を真似るように流も手を合わせ、食事を切りあげる。
空になった食器を素早く片し、夏芽はエアコンの電源を切った。


「よし、出かけるぞ」


流は、きらきらと眼を輝かせた。
彼が纏う服は、昨日着ていたものなのだが、それは洗濯機や洗剤のお陰で元の白を取り戻していた。

窓の鍵が閉まっているか確認する夏芽の後ろを、流はてけてけとしっかり付いてくる。
一晩という短い時間で、流はまるで姉を慕うように夏芽に懐いていた。
そんな彼にバレないよう小さく笑いながら、夏芽は一通り確認し終え玄関へ向かう。
そこに並ぶ靴を履き、二人は家を出た。


「ほら、乗りな」


愛用している自転車に跨り、車体を流の方に傾け夏芽が言う。
流は少し低くなった荷台によじ登り、夏芽の腰にぎゅっと腕を回してしがみ付いた。
夏芽は笑う。


「そーそ。しっかり掴まっとけよ。じゃないと落ちるぞ」

「うん」


ぎゅー。更に力が強くなる。
夏芽は、ペダルを踏む足に力を込めた。

本日の日差しも絶好調そのもので、二人の額に早くも汗が滲む。


「なつめ、あついー」

「余計暑くなるから言うなぁー」


前へ漕ぎながらも返す彼女の声は、けだるさを含みその暑さを物語る。
帽子も忘れずに買おうと夏芽は思った。
 
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