クレイジー☆ベイビー

□もしもし
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キーンコーン
四限目の終了を告げるチャイムが鳴り、当然のように坂本が号令をかける。


「きりーつ、れい」


どこかけだる気な声に合わせて、生徒達は頭を下げた。
そして教師が出ていくと、クラスメイトはそれぞれ得に仲の良いグループで集まり昼食を食べはじめる。
夏芽は席に着き、大きく背伸びをした。


「あー!やっと終わったぁ!」

「お前2時間だけじゃん」


欠伸をしながら坂本は彼女に呆れた視線を送ると、鞄から白いレジ袋を出した。
夏芽は、ししっと歯を見せて笑う。


「いーじゃんいーじゃん。ね、もっくん。ノート見せて」

「拒否」

「えー!前半はルーズリーフくれたのに!!」

「授業中居なかったのと、受けてんのにノートとらなかったのは別」


メロンパンをもふもふと頬張る彼に軽くあしらわれ、夏芽はむぅと頬を膨らませた。
そんな彼女の後ろから現れるのは、同じクラスの男子。


「坂本くんのケチ!私がこんなに可愛くお願いしてるのに!!」

「日向キモい」


日向と呼ばれた彼―日向一夜は、そう言った坂本の何か汚いものを見るような冷たい視線を受けとめて笑った。
彼の色素の抜けた髪の間からシルバーのピアスが覗いているが、気にした様子もなく笑うその表情はまだ少し幼さが残る。


「おはよーヒナ。暑いから一歩下がろうか」

「もうこんにちはだと思うけどおはよう。とりあえず俺も暑いから離れるわ」


日向は笑って、彼女の首にまわした手を解き離れた。
その時、不意に制服のポケットの中の携帯電話が振動した。
夏芽は教室前方の時計を見て、「あ、忘れてた」と呟き立ち上がる。


「ごめん、ちょっと電話」


片手に携帯電話を握る夏芽を見て、日向はその笑みを冷やかしを込めたものへと変えた。


「夏芽さぁ、それってもしかして男?」

「?、あぁうん、男」


不思議そうに眉を寄せながらも、夏芽は続くバイブ機能に急かされベランダに出ていった。
残された後には、日向が先程の笑顔をそのまま坂本に向ける。


「男だってさもっくん。どうする?」

「黙れもっくん言うな」

「酷いなぁ。失恋したからって俺に八つ当たんなよ」

「マジうぜぇ」


 ◇◆


まだ残る暑さに顔をしかめながら、夏芽は携帯のディスプレイを見た。
そこにはやはり見慣れた数字の羅列が表示されており、夏芽は通話ボタンを押す。


「あー、もしもし?」


とりあえず確認するように声をかけると、聞こえてくるのはたどたどしい幼い声。


『え、あ、流です』

「解ってるよ」


思わず笑うと、流は声を弾ませた。


『なつめ、あのね、ご飯おいしかったよ』

「お、そう?皿はちゃんと水につけた?」

『うん!あとね、なつめの絵かいたの』

「マジか。帰ったら見せてね」


聞こえてくる無邪気な声に、自然と頬が緩む。
流は家を出た時はそれこそ捨てられた子犬のような眼をしていたが、今はもう大丈夫なようだ。
解りやすく家の電話をテーブルに置き、その隣のメモに時計の絵も描いた。そして『1時』になったら電話をするようにと言い付けた。
大人しく留守番ができているかの確認のつもりだったのだが、こうも解りやすいとは思わなかった。

例えば昔、自分にもこんな頃があったのだろうか。
そう考えると尚更、その声が愛しいものへとなっていく。


「じゃあ流、そろそろ切るな。すぐ帰るから」

『…ほんとに、すぐ?』

「うん、すぐ」

『わかった。じゃあね』


しぼんだ声に別れを告げて、夏芽は電源ボタンを押した。
同時に寂寥に似た思いが込み上げるが、夏芽は一度固く眼を瞑ってそれを振り払った。


流は、私が助けなきゃ。


そして携帯のアドレス帳を開き、ある名前の所でピタリと彼女の指が止まる。

宮内(らん)

夏芽は苦虫をかみつぶしたように眉を寄せて、必死に暗示をかけた。
そして、勢いに任せてボタンを押した。


(ええい!)


プルル…
呼び出しのコールが響く。
その度に心拍数だけが上がった。

そして、コールが、やんだ。


「…こんにちは。小路、夏芽です」









ハローハロー

いつのまにか
小さな君を護りたいと思っていた

 
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