クレイジー☆ベイビー

□もしもし
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ゆさゆさと、思考を遮るように揺さぶられ、夏芽はうっすらと眼を開けた。


「なつめ、なつめ」

「んー…」


未だぼやけた視界に映るのは、自分を見下ろす少年。
それに、夏芽は既視感を感じる。


「流…なんだ、またトイレか…?」


眼を擦り、欠伸をする夏芽に、流は眉根を寄せて何か四角いものを突きだした。


「これ、うるさい」


彼の小さな手の中には確かに夏芽の携帯が握られ、ほぼ毎朝聞いているアラーム音を大音量で歌っている。
それを見た瞬間、夏芽の頭は覚醒した。


「今何時!?」


言って、流から受け取った携帯の画面を勢いよく覗き込む。
携帯の表示は、07:33。


「寝坊した――!!」









crazy 4









キーンコーンカーンコーン。
校舎中にチャイムが響き、ガラリと教室前方の扉が開いた。
入ってきたのは大柄な男であり、教卓にどさりと教科書などを置くと、男は教室を見回して言う。


「休み居ねぇかー?お、珍しいな。小路はどうした?」


窓際にぽつりと空いた席に眼をやりながら言うと、ガラリと今度は教室後方の扉が開いた。
クラス中の視線を受ける彼女は、くたびれた様子で「おはよーございまーす」とけだる気に欠伸をこぼした。


「おい小路。何がおはようだよ。もう三時間目だぞ。俺様の楽しい社会の時間だぞ馬鹿やろう」

「そう言うなよゴッ…センセー。頑張ったんだから許してよ」

「今何て言いかけた?ホラ言ってみろ、怒らねーから言ってみろ」

「もう怒ってるよ…」


にっこりと笑う斉藤に、夏芽は心中で溜息をつく。
そのまま教師を無視して自分の席に着くと、机の上にルーズリーフが数枚飛んできた。
夏芽は、少し眼を丸くして隣の席を見る。すると、頬杖をついた坂本がこちらを見ていた。


「一時間目の数学と二時間目の現国の分」

「う…お?もしかして、私のも版書してくれた?」

「それ以外に何があるよ」


白いチョークが文字を綴りだした黒板に視線を戻す彼とルーズリーフを交互に見て、夏芽はきらきらと眼を輝かせた。


「マジか!もっくんありがとう!助かる!」

「うるせーよ馬鹿。つか、もっくんてのやめろ」


苦々しく言って、坂本は斉藤が書いたことや説明をノートにきちんととっていく。
夏芽はさっきまでの億劫な気分も吹き飛び、自分の鞄から筆箱を出した。


「いやぁ、さすが委員長。優しいなー」


嬉々とした表情をたたえる彼女を横眼で見遣り、坂本は小さく息を吐き出した。


「…委員長だからとか、関係ねーよ」


ぼそりと呟かれた言葉に、夏芽はきょとんと坂本を見る。


「ん?なんか言った?」

「言ってねぇ。それより注意されるからいい加減黙れ」

「へーい」


さすが委員長というべきか、坂本は熱心とまではいかずとも真面目に斉藤の話を聞いている。
自分には到底真似できないと思いながら、夏芽は窓の向こう側をぼうっと眺めることにした。

あとで社会も写させてもらおう。
そんな、坂本からすれば面倒臭いことを考えた。
 
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