あなた日和
□はじめまして、新しい毎日
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「ねぇ、内緒だよ。誰にも言わないでね」
「な…なに?急に」
「私、水城くんが好きなんだ」
突然そんな事を言われて、何も言えなかった私が悪いんだろうか。
「応援してくれるよね?」
君は、無邪気に笑った。
episode 1
「あいー」
校舎に昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響くと、親友の真紀が私の所へやってきた。
私は自分の席に座ったまま、弁当を持った真紀を見上げる。
真紀は申し訳なさそうな顔の前で、パンっと手を合わせた。
「あい、悪いんだけど今日…」
「あーはいはい、水城でしょ」
何を言いたいのかすぐ解った私は、真紀が言い終える前に遮った。
「ほんと、仲いいんだから。解ったから早く行ってやんな」
野良犬にするように、しっしっ、と手をやると、真紀は「ありがとう」と嬉しそうに教室を出て行く。
その姿には、女子の私も可愛いなと思ってしまう。
私は小さく溜息をこぼして、弁当を片手に席を立った。
二週間前。真紀は、隣のクラスの水城達哉に告白した。
水城達哉といえば、うちの高校では知らない人は多分居ない。
文武両道で普通にイケメンで、しかも性格もいい。
真紀は頑張ってアタックしてたから、OKを貰った時はすごく喜んでいた。
逆に、水城が好きだった女子は悲しみに暮れたんだろうね。
…私も好きだったけど、別にそんな事はなかった。
真紀はいい娘だし顔もいいし、他の女子も妬むに妬めない。
私は真紀みたいに可愛くもないし、だいたい好きな男子に告る勇気は微塵もない。
実際、水城と話した事も三回くらいしかない。
だからまぁ、しょうがないよ。
真紀が水城と昼休みを一緒に過ごす日は、私はいつも同じ場所で時間を潰す。
そこは、滅多に人の来ない学校の中庭。
うちの中庭には桜の木一本しか無くて、桜も散ったこの時期はみんな見向きもしない。
「今は、青いはっぱが綺麗なのにね」
それなりに大きな木に凭れるように腰を下ろして、弁当箱の蓋を開けた。
そうすれば弁当特有の、美味しそうな匂いがあふれる。
あ、卵焼きある。
昨日父さんに言っておいてよかった。
父さんの一番うまい料理は卵焼きだと思う。
綺麗に楕円形になった卵焼きを箸で掴むと、それを口に運んだ。
うん、やっぱり美味しい。