あなた日和
□いつか、
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「あ」
朝。
私は結構大事な忘れものを思い出して、声を漏らした。
「岡崎の好物が判らない…」
昨日にでも、ちゃんと訊いておくべきだった。
弁当のおかず、どうしよう。
episode 3
「おはよう」
リビングで朝ごはんを食べてたら、父さんがいつもより早く起きてきた。
当番の日でもないのに、珍しい。
「おはよ」
「はよ」
私と兄さんが声を返すと、父さんは私の向かいの席に着く。
「父さん」
「なに?」
「父さんの青い弁当箱借りた」
「いいけど…なんで?」
…普通に答えていいのかな。
なんでって訊かれると、こんなに困るもんなんだ。
なんて答えようか考えてたら、隣で兄さんがごちそうさまと手を合わせた。
「彼氏に作ったんだろ、弁当」
「なっ」
「彼氏!?」
私と父さんの声が重なる。
「藍空、彼氏いたのか!?」
「兄さん!なんで知ってんの!?」
「こないだ…先週の水曜か。家出た時に会った。確か岡崎…だっけ」
「ちょっと待って、水曜って朝練の日でしょ!?」
「そうだけど?」
空になった食器を片して、何て事無い様子で兄さんはリビングを出て行った。
このやろう、厄介なことだけ言い残しやがって。
いやいやいや、今はそこじゃないよ。
先週の水曜って、付き合うフリする事になって一日目だよ?
玄関を出たら何故かあいつが居た日だよ。
あの時は、今インターホン押そうとしてたって…
嘘かアレ!?
「藍空!岡崎くんって誰…」
「行ってきます!」
さっさと食器を片して、私もリビングを出た。
いつもはしないけど、玄関の扉の小さな穴から外を覗いてみる。
狭い視界の中に、明るい茶髪が入り込んだ。