あなた日和
□夕陽に染まる
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「部活?」
お馴染みになりつつある、桜の木の下。
私は今多分、きょとんとしてるんだろう。
「そ。今日部活だから遅れるから、藍先帰ってて」
「んー…いいや、待ってる」
「え?」
私が待つと思ってなかったみたいで、今度は岡崎がきょとんとした。
「今日、私日直だし。ていうか、岡崎クラブ入ってたんだ。何部?」
「…バスケ部」
「へぇ、っぽいね」
「それって褒めてる?」
「極上の褒め言葉だよ」
episode 4
「あれ、岡崎くんは?」
放課後。
クラスメイトが次々に教室を出ていく中、真紀が不思議そうに言った。
「今日部活なんだって」
「あ、そっか。すごいよね、一年でレギュラーなんてさ」
「うんうん、すごいすご…い?」
今、何て言った。
レギュラーだと?
あの二人組の芸人でなく?ガソリンでもなく?
「…え、何。あいつ何者なの」
「嘘、知らなかったの?有名だよ?」
「数日前まで無関心の果てにいた奴だからね」
なんてこった。
私はとんでもない奴の彼女になってしまったらしい。
あの顔でスポーツできれば、そらモテるわ。
やめてくれ。私は平凡な暮らしで充分なんだ。
頭を抱えたら、机に広げたモノを見て現実引き戻された。
「…あ、日誌書かないと」
「急にきたね」
「あと真紀、水城待ってるよ」
シャーペンで教室の入り口をさせば、そこにはイケメン野郎。
水城は真紀と私を見て、何故か優しく微笑む。いわゆる、王子様スマイル?
「こんにちは、中村さん」
「こんちは」
ヒラヒラと手を振る私の前から、真紀は嬉しそうに水城の許に駆け寄っていく。
あの日から、二人を見てもモヤモヤしなくなった。
それは多分、というか絶対、岡崎のお陰だということは充分すぎるほど解ってる。
「じゃああい、先に帰るね!」
「ん。ばいばい」
「バイバイ!」
幸せそうな真紀を見てると、こっちの頬まで緩む。
あの娘には、幸せになってほしいと思ってるんだ。
ババ臭いけど、これは本心で。
「…日誌か」
あぁ、嫌なことを思い出してしまった。
机に広げた日誌に、また視線を落とす。
相方の溝口はいつの間にか逃げて、私一人でやらなきゃならない。
カチカチとノックして、シャー芯を出した。
「さぁやろう!」って時に、誰かが教室を覗き込んだ。
…誰だ、あれ。
私以外に誰も居ない教室を覗き込む女子三人は、私を見て表面上の笑みを張り付ける。
「えっと、中村さん…だっけ」
「…そうですけど。私以外はみんな居ませんよ」
「あたし達、中村さんに用があるんだ。ちょっといいかな?」
まだ綺麗めの制服だから、多分同じ1年。
私は、この笑顔を知ってる。
「いいですよ」
面倒臭いけど、仕方ないから私は席を立った。