あなた日和
□対極的な心
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もわもわと、視界を曇らせる湯気。
湯船に張ったお湯に、慎重に浸かった。
「――っ!」
やっぱりしみた!!
普通の打撲だけだったらよかったのに。
ムダに擦り傷なんかも出来てるし。
兄さんには「そんなの貼って不良か」って馬鹿にされるし。
…岡崎も、なんか違ったし。
―最悪。
「…私のことなんか、放っとけばいいのに」
私は、そういうモノなんだから。
episode 5
「むぅ…」
朝。洗面所を独占して、鏡と睨めっこ。
頬の腫れはだいぶマシになったけど、やっぱり赤い。
この色じゃ、ぶつけたって言っても信じてもらえないなぁ…
「…邪魔」
「…もうちょっと」
ハブラシでシャコシャコ歯を磨いてる兄さんが、口を濯ぎたそうに私の横に並ぶ。
もうちょっと岡崎みたいに気をつかえないかな。
今可愛い妹が悩んでるのに。
…自分で言ってダメージを受けてしまった。
可愛いと岡崎は少し禁句だな。
「そういや、岡崎さ…」
「今禁句って言ったのにぃ!!」
「は?」
「…何でもないでーす」
はぁ、と溜息を吐きだして、兄さんに洗面台を譲った。
「兄さん、湿布持ってなかった?」
「持ってるけど」
「ちょうだい。ほっぺたに貼る」
「…それ、転んでぶつけた割に色えぐいよな」
タオルで口元を拭きながら、兄さんは私の頬を見て言う。
「喧嘩した?珍しい」
「してない。ぶつけたの」
「ガキなんだから喧嘩ぐらいするって。懐かしいな、お前がそんなになんの」
「してないって」
「あーハイハイ、親父呼んでるから行ってやれ。あとで湿布持てってやるから」
折角クシで梳いた髪をわしゃわしゃと撫で、兄さんは階段を上がって行った。
こんな頬じゃ、父さんのとこに行けないの解ってるクセに。
ていうか、兄さん何か言いかけなかったっけ…
「…岡崎がどうしたんだ?」
それより、なんで兄さんの口から岡崎?
洗面所で悶々としてたら、兄さんが戻ってきた。
「兄さん、さっき…」
「ほれ。ありがたく受け取れ。ついでに兄をもう少し敬え」
意味不明なことをほざきながら、兄さんは湿布を私の頭の上にのせる。
「…ありがと」
一応礼を言って、私はそれを受け取った。