あなた日和
□ある土曜日の昼下がり
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「悠太!行っちゃいや…!」
「美香…っ」
薄暗いの中に響く声、スクリーンに映し出される役者達。
どこからか聞こえる、すすり泣く声。
ストーリーはいかにも真紀が好きそうな、切ないラブストーリー。
私も嫌いではないけど、他人の恋愛で泣ける程の心を持ち合わせちゃいない。
というか、男子の岡崎がこれを見て面白いんだろうか?
そう思って、隣に目を向けてみる。
黙って前を向いちゃって、意外と真剣に見てんのかななんて思ったら大間違い。
かすかに寝息が聞こえた。
寝顔が可愛いなんて思ってしまったのは、誰にも秘密にしておこう。
episode 9
「藍ー」
遠くで聞こえた聞き慣れた声で、現実に引き戻される。
「ん……おか、ざき…?」
「おはよう。映画、終わったよ」
うっすら視界に入るのは、明るくなった劇場。
岡崎の肩に乗った頭が、ぼんやり考える。
おはよう…?
そこで、ようやく私の頭は覚醒する。
「わっ、ごめん、何、寝てた、ごめんっ」
「藍、落ち着いて」
岡崎が苦笑する。
一気に恥ずかしさが込みあげてきて、勢いよく椅子から立ち上がった。
「ほんとごめん!肩重かったよね!ごめん!!」
「いいよ、俺も寝てたし」
「そうだけど、肩とか痛くない?」
「平気だって」
小さく笑いながら、岡崎は多分空であろうジュースのカップを持って立ち上がる。
「ほら、出よ」
「うん…」
あぁ、マジで何やってんだ私。
男子に寝顔見られるとか…ありえない。
劇場を出れば、スタッフの人がカップを受け取って捨ててくれる。
腕時計の針は、1時40分を指している。
この後の予定は全くない。
「岡崎、これからどうすんの?」
「とりあえず腹減った。どっかで食べない?」
「あー、だね。無難にマックとか?」
「そうしよっか」
一足遅い昼ご飯はマックになった。