あなた日和

□ケーキ
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「むぅ…」


私の目の前に、ずらりと並ぶ本達。
中身は、どれを見ても美味しそうなケーキばかり。
男子はどういうの貰って嬉しいんだろう。これは難しいな…


「…お客様、何かお困りですか?」


近くに居た店員さんが話しかけてくれた。おっ、初見。
男の人だし…訊いてみようか。


「あの…この中で、男の子が好きそうなのはどれですか?」

「は…?」


あちゃー
逆に困らせてしまった。









episode 12









ヤバい。すっかり遅くなっちゃった。
一体何時間本屋に居たんだ私。
優しい店員さん、ご迷惑おかけしました。


「ただいまぁ」


玄関に上がると、土曜なのに制服を着た兄さんと鉢合わせた。
あぁ、確か今日も部活だったっけ。


「おかえり」

「うん、おつかれ」

「…なんかいいことでもあった?」


なんだ突然。兄さんがそんな事訊いてくるなんて。

まぁ、無かったこともないけど…
…岡崎、喜んでくれるかな。
ちょっと考えただけで、頬がゆるゆると緩む。


「今日はいい買い物をしましたっ」


そして優しい店員さんに会いました。
あの本屋よく行くのに、なんで会ったことなかったんだろ。新入りさん?


「そう、何買ったの?」

「コレ」


ガサガサと袋から取り出して、買った本を見せた。
そしたら、兄さんは明らかに呆れた顔をする。


「また料理の本?何冊目だよ」

「なっ、ケーキはまだ二冊目だもん!」

「『ケーキは』?」


兄さんの眼が、ギラリと光る。
いっつも死んだ魚みたいな目してるクセに。


「ほら白状しろ。まとめて何冊目?」

「…63冊目です」

「主婦か」


最後には、はぁと溜息をつかれる始末。
なんでそんなことされなきゃなんないの。


「お前…自分の小遣いなんだからもっとさぁ」

「私の小遣いなんだから私の自由でしょ」

「そうじゃなくて、本当に好きなことに使えって言ってんだよ」


面倒臭そうに頭を掻く兄さん。
なんだか無性にいらついてきて、


「…っさいな、兄さんに関係ないじゃん!」


そう吐き捨て階段を駆け上がった。
バンッときつくドアを閉め、部屋の電気を付ける。
私は明るくなった部屋の中、ドアに凭れるようにずるずるとへたり込んだ。


「私のばか…」


今更罪悪感が込み上げる。
本棚に並ぶ本達まで、私を責めている。そんな感覚にすら陥る。


「だって…まだ足りないんだもん…」


一人膝を抱えて、どこからか聞こえてくる声に耳を塞いだ。


やめて。そんなこと言わないで。
もっと頑張るから、なんでもできるようになるから。

だから…


イラナイなんて、言わないで。
 
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