あなた日和

□テスト前
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2時間目と3時間目の、たった10分間。
俺はいつもみたいに達哉と他愛もない話をしていた。


「あ、そういえば、結局中村さんに何頼んだの?」


突飛な質問が飛んで、俺は達哉に訊き返す。


「は?なんの話?」

「修の誕生日の話」


なんで達哉がその話を知ってんだろう。
あれか、安藤か。

…あの時の藍、可愛かったな。
恥ずかしそうに少しだけ頬を染めて、「何が欲しい?」って。
あんなの、ずるいだろ。


「修、無意識だろうけどニヤけてる」

「…マジでか」


危ない危ない。
これじゃただの変態だ。


「でさ、結局何にしたの?」


そんなに気になるのか?
少し疑問に思いながらも答えようと口を開いた時、


「水城…くん、居る?」


恥ずかしそうな小さい声が、耳に届いた。









episode 13









声のした方を見ると、ドアの所に気恥ずかしそうに女子が立っている。
俺の口から、そいつの名前が自然と漏れた。


「藍……?」


俺の声が聞こえたのか、藍はこっちを見つけてハッと目を輝かせる。
多分、このクラスに俺達以外の知り合いが居ないんだろう。


「中村さん」


達哉が笑って手招くと、藍は少し小走りにこっちに駆けてきた。


「藍、どうかした?」


藍がこっちに来るなんて珍しい。
俺が訊くと、僅かに目が泳ぐ。


「えっと…その、水城に用事…というか…」

「俺?」


名指しされた達哉も、驚いたように目を丸くしている。
藍は一回こっちを見て、


「ちょ、ちょっと…」


と水城に耳打ちする。

…すごく気になる。
でも俺は何も訊けない。
藍が俺のもんなら、きっと訊けるんだろう。

何話してんの?
なんで俺じゃなくて達哉なの?

訊きたいけど、訊けない。

藍は、俺のもんじゃない。
きっとまだ、達哉のものだ。


二人は暫く交互に耳打ちし合って、話し終わったのか少し離れた。


「いいよそういうことなら、俺は全然」

「ほんとっ?ありがとう」


にっこりと微笑んで、藍はせかせかと教室を出ていった。
取り残された俺の脳裏に浮かぶのは、最後に見せた嬉しそうな笑顔。


「なに、そんなに気になる?」


なんだか楽しそうな達哉に、久しぶりにイラッときた。


「全然」

「大胆な嘘だね」

「うっせー」


お前にはきっと解んないよ。多分、誰にも解らない。

俺が藍をどれだけ好きかなんて。

こんなに好きなのに何も言えない。訊けない。
触れない。


遠い、遠い。
近くに居るのに、居る筈なのに、遠い存在。
 
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