あなた日和

□6月6日
1ページ/3ページ


正座。ベッドの上でひたすら正座。
そんな私の前に、オレンジの携帯電話(お気に入り)が待ち構えてらっしゃって…
その携帯の画面には――アイツの名前。


「参ります!」


小さな決意に似たものを固めて、私は携帯の通話ボタンを押した。

プルル…
呼び出しのコールが鳴る。

1回、2回、3回…
コールの度に、私の心拍数は上がった。

それで、5回目。


『もしもし』


耳に届いた、岡崎の声。


「な、中村です」

『うん、解ってるよ。材料言って?』


促す声と何かを開ける様な音。多分冷蔵庫。
私は、こないだ買ったばかりの本を見ながら答える。


「えっと、卵…」

『あ、ないや』


…そこからか。









episode 15









今日は6月6日。

岡崎の誕生日。


「藍、邪魔」

「うるさい」


少しは妹を気遣ってくれてもいいんじゃないだろうか。
また朝から洗面台を占領してるのは悪いと思うけどさ、兄さんは部活で汗だくになって終わりでしょ?別にいいじゃん。
とは思いつつも、ちゃんとどいてあげる。実際もう終わってるから。


「兄さん、ヘンじゃない?」


シャコシャコと歯を磨く兄さんの前で、くるりと一回転する。
ていうかすっげー眠たそう。


「藍、どっか行くんだ。どこ?」

「ヘンかどうか訊いてるんだけど」

「あ、そっか。岡崎とデート?」

「ねぇ聞いてよ」


相変わらずマイペースだね。
兄さんに訊いた私が馬鹿だったんだ。


「うん、そうだよ」


とりあえず兄さんの問いには答えておく。


「やっぱり。ラブラブー」

「棒読みで言われても」


第一、ラブラブになんかならないしね。
どうせ私ばっか意識してんだもん。


「今日だっけ。あれ」

「どれ」

「あれだって、アレ…岡崎の誕生日!」

ボケてんじゃないの


誕生日がでてこないって…重症じゃん。
はぁ、と呆れて溜息をついた時、

ピーンポーン


「え、もう来た!?」


あれ、早くない?


「早く出てやれー」

「解ってるよ!」


兄さんに急かされて、荷物を引っ掴んでドアを開けた。


「どうもー。宅急便でーす」

「…どうも」


―恥ずかしい!!
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ