長編
□未来
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キルアの元へ、帰れない…。
クロロ=ルシルフルに言われた言葉が頭の中で木霊する。
『君を、愛していると言ったら怒るか?』
何故そんな事を言ってくる?
何故私にそこまで執着する?
何故私でなければならないんだ?
怒るに、決まっているだろう……。
それなのに、あの言葉が頭から離れない。
私はキルアだけを愛しているというのに、何故!?
そんな自分が死ぬほど嫌いになってしまう。
あんな言葉一つで心が揺れ動かされてしまう自分に腹が立つ。
キルアは、何をしているんだろうか…。
朝から一度も、連絡が来ない。
キルアの声が聞きたいのに、
キルアに逢いたいのに、
キルアに抱き締められたいのに、
それでも自分からは連絡をしたくない。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
不意に、子供の声がした。
地面に落としていた視線を上に上げれば、青の髪、深い赤い双眼、一目で育ちの良さが解る子供が、自分の目の前にいた。
「泣いてる…。何が哀しいの?何が辛いの?何が苦しいの?何がお姉ちゃんを哀しませてるの?」
「…………大丈夫。それに私は、男だよ。」
子供らしくない、言葉の落ち着きさ。
クラピカの頬に流れる涙を掬い、自分も哀しそうに涙を浮かべる。
今度はクラピカがその涙を掬ってやると、子供は花が咲いたような笑顔を見せた。
「お兄ちゃん、だったんだね。」
「あぁ。君は、一人なのか?」
「ううん!お姉ちゃんが一緒だよ!」
「そうか。君は、一人じゃないんだな。」
笑顔とは裏腹に、クラピカの声は低く、小さい。
「お兄ちゃ「サーシャ?」…お姉ちゃん!」
クラピカに声を掛けようと手を伸ばした子供、サーシャの声を、高く凛とした声が遮った。
サーシャは嬉しそうに踵を返し、サーシャの姉の元へと駆けて行く。
「お姉ちゃん、クラピカさんが泣いちゃう…。お姉ちゃん…」
「クラピカさん……?」
サーシャがサーシャの姉に抱き着き、クラピカを指差しながら訴える。
サーシャの姉は首を傾げながらサーシャが指差す方へと視線を投げる。
「あの…大丈夫、ですか?」
おずおずと、クラピカの顔を覗き込むようにしてサーシャの姉は問い掛けた。
「えぇ、貴方は……?」
「申し遅れました。私はサーシャの姉のカタルと申します。」
「私は、「クラピカ。」……え?」
「クラピカ、で合っていますか?」
「え、えぇ。ですがどうして私の名を?」
カタルはクスクスと笑いながらサーシャの頭の柔らかく撫でる。
そして空いている手の人差し指を自らの唇に当て、微笑んだ。
「秘密、ですよ?」
カタルの纏う雰囲気はあどけない子供のように、無邪気なものだった。
「クラピカさん、自分を、嫌いになっちゃいけませんよ。よぅく、考えて下さい。
貴方は誰を愛してますか?貴方の愛す人は貴方を愛してくれていますよね?」
「君は、一体……」
サーシャの頭を撫でながら、カタルは言葉を紡ぐ。
まるで、クラピカの全てを知っているかのように。
そしてクラピカは、また、涙を零す。
「貴方の涙を掬うのは、私でも、サーシャでもない。
キルアさんなら、貴方を優しく包んでくれますよ。」
「まだ、悩む事はありますか?」
カタルは微笑む。
その微笑みは誰もが眼を奪われてしまうように綺麗で、優しい微笑みだった。
「…キルアっ……!!」
そしてその微笑みを崩さぬまま、自分たちのいる公園の入口を指差した。
クラピカは走る。
愛しいキルアの元へと。
自分を迎えに来てくれたキルアの元へと。
「カタル、さん……?」
キルアに抱き締められる寸前、カタルがいるであろう後ろを振り返っても、カタルとサーシャは忽然と姿を消していた。
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