長編


□未来
1ページ/5ページ




キルアの元へ、帰れない…。

クロロ=ルシルフルに言われた言葉が頭の中で木霊する。


『君を、愛していると言ったら怒るか?』


何故そんな事を言ってくる?

何故私にそこまで執着する?

何故私でなければならないんだ?


怒るに、決まっているだろう……。


それなのに、あの言葉が頭から離れない。

私はキルアだけを愛しているというのに、何故!?

そんな自分が死ぬほど嫌いになってしまう。

あんな言葉一つで心が揺れ動かされてしまう自分に腹が立つ。

キルアは、何をしているんだろうか…。

朝から一度も、連絡が来ない。

キルアの声が聞きたいのに、
キルアに逢いたいのに、
キルアに抱き締められたいのに、

それでも自分からは連絡をしたくない。




「お姉ちゃん、どうしたの?」


不意に、子供の声がした。

地面に落としていた視線を上に上げれば、青の髪、深い赤い双眼、一目で育ちの良さが解る子供が、自分の目の前にいた。


「泣いてる…。何が哀しいの?何が辛いの?何が苦しいの?何がお姉ちゃんを哀しませてるの?」

「…………大丈夫。それに私は、男だよ。」


子供らしくない、言葉の落ち着きさ。
クラピカの頬に流れる涙を掬い、自分も哀しそうに涙を浮かべる。

今度はクラピカがその涙を掬ってやると、子供は花が咲いたような笑顔を見せた。


「お兄ちゃん、だったんだね。」

「あぁ。君は、一人なのか?」

「ううん!お姉ちゃんが一緒だよ!」

「そうか。君は、一人じゃないんだな。」


笑顔とは裏腹に、クラピカの声は低く、小さい。


「お兄ちゃ「サーシャ?」…お姉ちゃん!」


クラピカに声を掛けようと手を伸ばした子供、サーシャの声を、高く凛とした声が遮った。

サーシャは嬉しそうに踵を返し、サーシャの姉の元へと駆けて行く。


「お姉ちゃん、クラピカさんが泣いちゃう…。お姉ちゃん…」

「クラピカさん……?」


サーシャがサーシャの姉に抱き着き、クラピカを指差しながら訴える。

サーシャの姉は首を傾げながらサーシャが指差す方へと視線を投げる。


「あの…大丈夫、ですか?」


おずおずと、クラピカの顔を覗き込むようにしてサーシャの姉は問い掛けた。


「えぇ、貴方は……?」

「申し遅れました。私はサーシャの姉のカタルと申します。」

「私は、「クラピカ。」……え?」

「クラピカ、で合っていますか?」

「え、えぇ。ですがどうして私の名を?」


カタルはクスクスと笑いながらサーシャの頭の柔らかく撫でる。

そして空いている手の人差し指を自らの唇に当て、微笑んだ。


「秘密、ですよ?」


カタルの纏う雰囲気はあどけない子供のように、無邪気なものだった。


「クラピカさん、自分を、嫌いになっちゃいけませんよ。よぅく、考えて下さい。
貴方は誰を愛してますか?貴方の愛す人は貴方を愛してくれていますよね?」

「君は、一体……」


サーシャの頭を撫でながら、カタルは言葉を紡ぐ。
まるで、クラピカの全てを知っているかのように。

そしてクラピカは、また、涙を零す。


「貴方の涙を掬うのは、私でも、サーシャでもない。
キルアさんなら、貴方を優しく包んでくれますよ。」





「まだ、悩む事はありますか?」



カタルは微笑む。

その微笑みは誰もが眼を奪われてしまうように綺麗で、優しい微笑みだった。



「…キルアっ……!!」


そしてその微笑みを崩さぬまま、自分たちのいる公園の入口を指差した。

クラピカは走る。

愛しいキルアの元へと。
自分を迎えに来てくれたキルアの元へと。


「カタル、さん……?」


キルアに抱き締められる寸前、カタルがいるであろう後ろを振り返っても、カタルとサーシャは忽然と姿を消していた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ