長編
□決意
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零が、枢を愛してしまった事など、枢は知らない。
枢が、零を何故手放したかなど、零は知らない。
最初はどうも想ってはいなかったはずなのに、いつしか二人はお互いに惹かれ合っていた。
宿敵同士が惹かれ、想い、すれ違う。
愛を囁いても届かない。
届かないと解ってはいても、抑えるなんて出来ない。
大好きで、愛してて、愛しすぎて、……すれ違う。
好きだなんて言わなくてもいい。
愛してるだなんていわなくてもいい。
言葉にしてくれなくってもいい。
ただ、傍にいて欲しかっただけなのに…。
この想いが届く事など、あってはいけないと解っているのに、届いて欲しい。
貴方が手に入るのなら、どんな事だってした。
肉親もいない、ただ一人だった俺に、愛してくれる人が現れたのに、貴方はまた、消えていく。
俺の事も、アイツの事も、すべてを捨てて、消えていった。
どこにいるのかさえも、どこに向かうのかも、何が目的なのかも、何も解らない。
愛していても、伝わらない。
好きでいても、伝わらない。
何をどう伝えればいいのか、どうしたら伝わるのかなんて、それさえも解らないというのに、何故、愛なんてモノが俺は解ったんだろうか…。
何も解らないまま生きてきた。
壱縷がいてくれただけで良かったのに、壱縷が俺を裏切って、でも壱縷は変わってなくて、双子なのに俺だけが変わっていて、壱縷は一人、逝ってしまった。
「いちる…、」
呼んでも愛しい片割れは出てきてくれない。
俺の呼びかけには応えてくれない。
愛しい愛しい大事な片割れよりも、大事なヒトがいる。
それを解っていて、壱縷は出てきてくれないんだろうか…。
「壱縷、いちる……、」
大好きだよ、お前が一番大事だった。
「……かなめ…、」
でも、お前よりも大好きで、大事なヒトが出来た。
「かなめ、…っなめ、…っ、。」
あの人の名を呼ぶ度に愛しさが込み上げてくる。
それと同時に、哀しさも、寂しさも、込み上げてくる。
愛しくて、哀しくて、寂しくて、それでも愛してて……、涙は出てくるけど、何度も何度も名前を呼ぶ。
名前を呼んでも現れてくれる訳じゃない。
名前を呼んでも愛してくれる訳じゃない。
ただ、名前を呼ぶ事で、アイツに少しでも近付いた気がしてただけ。
「、なめっ、かなめ、枢!!」
逢いたくても逢えない。
触れたくても触れれない。
ねぇ、何処に行けば貴方と逢える……?
何度名前を呼べば貴方と逢える……?
俺には、何一つ、解らないというのに、愛しさだけが無性に込み上げてくる。
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