Anniversary

□ずっと一緒にいられるから、
1ページ/4ページ




街一色がバレンタインで浮き足だっているというのに、俺の心は全然晴れない。
いまだに闇に包まれて、この闇から俺は抜け出せない。

いや、抜け出したくないんだ。
この現実を解ってしまったら、俺は俺じゃなくなってしまう。

バレンタインという日を楽しむ人々を横目に俺は、雪で白くなった道に足跡を残しながらただ、歩く。

行く場所なんて決めてない。

そんなもの、俺には必要がない。

ただ脚が向くままの場所に行って、すぐに別の場所へ行く。

それの繰り返し、繰り返し………。

灰色の厚い雲が空を覆い、薄暗かった辺りはいつの間にか真っ暗だ。

降り続ける雪、やまない讃美歌、光り輝くイルミネーション。

辺りは明るいはずなのに、どうして暗いんだろう……、



街をただふらふらと歩き続ける零の目の前に、自分と瓜二つの顔が現れた。


「いち、る………?」


一年前に死別し、今尚零の中にいる愛しい愛しい双子の片割れ。


やっと、逢えた。


逢いたくて逢いたくて、待ち焦がれていた愛しい片割れ。

でも手を伸ばせば片割れは消えた。


「いちるっ……!」


人目も気にせず、その場に崩れ落ちる。
積もっていた雪が零の服を濡らしていく。
でもそんなものは今の零には届かない。

逢いたかった片割れが幻で、すぐに消えてしまったのだから、

泣きたい気持ちを抑えて、座り込んだまま無気力に空を仰ぐ。


「……いちる、」


名前を呼んでも現れない。
その温もりを確かめたいのに、確かめれない。


壱縷、逢いたいよ……。



「零っ、!」





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ