Anniversary
□恋人志願
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貴方の想いが手に入るのなら、この身体だって投げ出せる。
貴方と愛し合えるのなら、自分の命すらも安っぽく見える。
それでも貴方の想いを手に入れるには代価にすらならない。
願っても望んでも欲しても、絶対手に入らない存在だから、想う事しかしなかった。
何度も忘れようとした。
何度も消えてくれればいいと願った。
何度も何度も何度も、貴方の存在すら忘れられればどれだけ楽になれるんだろうと思った。
それでもこの瞳は貴方を無意識に追っていて。
視神経が貴方の姿を求めて、鼓膜が貴方の声を求めて、貴方の身体すらも欲していた。
忘れられる事が出来ないなら恨んでしまおうと思い付き、貴方の前では恨んでいる素振りをした。
「…お前なんか、大嫌いだ」
自分の言葉に意識が覚醒する。
目前には愛しい愛しい玖蘭枢。
枢の胸、心臓を的に鈍く光る銃口が当てられている。
「どうして?」
「どうしてって……、解らない訳じゃないだろ」
「僕には、解らないんだよ」
貴方を嫌いな訳がない。
寧ろ大好きで愛しすぎてしまっているから、こんな虚勢を張っているのに。
「君から憎悪の瞳を向けられる自分がとても、憎いんだよ。僕はどうして君の恨む純血種なんだろうか。どうして君にこんな哀しい瞳をさせてしまうんだろうか」
零の頬を撫でる指先は何度も何度も愛おしそうに頬を滑る。
窓からの月の光のみが部屋を照らし、人間なら相手の顔すら認識出来ないぐらいの暗闇でも、二人はお互いの顔が、しっかりと見えていた。
「ねぇ、零。教えて。君はどうして慈愛が消え去ってはいないその瞳に憎悪を飾って僕を恨むの?」
「そんなの…お前が純血種だから」
「それなら今すぐ殺せばいい。君に殺されるのなら僕は抵抗すらしない。悦んでその死を受け入れる」
促されるようにして銃を握る零の指に枢の指が絡まる。
ただ躊躇いも戸惑いすらも持たず指に力が込められた。
「やめっ…!!」
ドンッ、と鈍い音が部屋に響き、枢の胸を貫くはずだった銃弾は枢の背後にある壁に埋まっていた。
ポタリと枢の服の裾から血が流れ落ち、脇腹辺りの白いシャツがみるみる赤へと染まる。
瞬間、部屋中に広がる血臭に零は眉をしかめる。
痛くないはずがないのに、枢は何もなかったかのように微笑んだ。
「君は今やめろと言いかけた。ねぇ、どうして?」
「そ、れは…」
「僕は君を愛してる。君がなんと言おうと、君が僕を嫌っていても、君だけを愛してる」
「うそ…」
「嘘じゃない」
吸血鬼の異常なまでの治癒力でみるみる傷が塞がり、何もなかったかのように枢の脇腹は綺麗になっていた。
「だって、嘘じゃないならどうしてあんな……ッ、」
「僕が君に何をした?」
「何って……」
あぁ、このヒトは…、
「何も、してないでしょう?僕が君に手を上げたなんて有り得ない、ましてや君の危機的状況も助けてあげているのに」
言葉にしないだけで、こんなにも気持ちを表していたと言うのだろうか。
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