Anniversary
□言葉<想い
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いつも全てを伝えるのが苦手で、言葉にするのも苦手で、ましてや態度で示すのは恥ずかしくて。
それも全部受け止めてくれて傍にいてくれる。
――――――言葉<想い
「ハっ…っ、ハッ…」
クラピカはただひたすらに逃げていた。
古びた廃ビルが何十棟も所狭しと並び、何も考える事なくそのひとつに入り、円にかかってしまった。
しまった、と気付いた時には既に遅く、クラピカは旅団である何人かに囲まれていたのだ。
何人であっても勝てる気はした。否、勝つとしか考えてはいなかったのだ。
ジリジリと距離を詰めてくる相手に逃げ場の無いクラピカは常日頃から操作系と思わせる為に具現化していた鎖を陰で隠し、奴等を捕まえる事が出来、束縛する鎖と一緒に忍ばせていた律する小指の鎖をも一緒に差し込み旅団を動かせないようにした。
……ただ一人を除いては。
「陰、か…具現化系能力者だな」
「だからどうした」
「薄々気付いてはいたさ、あの時に」
漆黒の髪を撫で付けるようにオールバックにし、闇に呑まれたかのように黒い瞳の男がただ一人残っていた。
確か名前は、
「クロロ、ルシルフル…」
あの時、とはいつだろうか。
クラピカは思考を巡らせた。それでもその答えに辿り着く事は出来ずに考える事を諦め、目の前にいる男へと視線を戻す。
「お前は、クルタ族の生き残りか?」
「お前に関係はない事だ」
クラピカの瞳は黒いコンタクトをしているからか鮮やかな緋色を映す事なく、ただ漆黒に包まれたままだ。
「なら問いかけを変えよう。お前はオレに、オレ達になんの用がある?」
「べらべらとよく動く口だ。その口を塞いでやろうか」
「ふ、気が強いな。…気に入った」
「なっ――!!」
クロロの言葉はクラピカの怒りを増大させるだけで、捕らえようと指先を動かした途端、目の前にクロロはいた。
さらり、と髪を触れられている事にすら一瞬遅れてやっと気付き、反射的に出た右腕をいとも簡単に握られる。
抜けようと腕に力を入れてもその拘束が解かれる事はなく、逆に少しずつ力が増しクラピカは痛みにほんの一瞬だけ顔をしかめたのをクロロが見逃す筈もなく、その一瞬の内にクラピカを抱き寄せるようにして腰に手を回す。
「貴様…ふざけるのもいい加減しろ。私がお前にこんな事をされて何も言わないとでも思っているのか、」
「いいや?だがそんな奴を力で捩じ伏せるのも楽しいからな」
「私がお前に劣っている訳がない、だろうっ!!」
少し見上げるような形になってしまう身長差すらも嫌悪感にしかならないクラピカにとっては今すぐにでもクロロを殺してやりたいのだ。
だが右腕を強く握られたままではまともに鎖を操れる訳がなく、何をしてくるとも限らない。自由であるのは両脚と左腕。
クラピカは念を左腕に集める、硬を使い、何もガードのされていない腹に目掛けて思いきり拳を打ち付けた。
「っ!!?……まさか硬で来るとは思わなかったな、」
「黙れ、次は心臓を貫くぞ」
「でも、」
不意打ちにクラピカを拘束していた腕は外れ、クラピカは間合いを取り律する小指の鎖をクロロに差そうとした。
「お前じゃオレに致命傷を与えられない。殴るなら腹じゃなくて顔を薦める。硬で強化した腕なら顔ぐらい余裕で吹っ飛ぶ」
「なんっ、だ…」
しっかりと間合いを取った筈の距離はジリジリと詰められ、だがクラピカは脚が縫い止められたかのようにその場から動く事が出来ずにいた。
――痛みも何も感じない。奴の念は発動条件を満たしていない筈なのに、何故。
ジリジリと詰められる間合いを見つめながらクラピカは必死に思考を巡らせていた。
「まぁ、顔と言ってもガードしなければ、だがな」
クロロの紡ぐ言葉などクラピカの耳には届いてすらいなくて、ただこの危機をどうすれば回避出来るのかと混乱する頭で考えていた。
――私はこのまま、終わるのか…?
目的を成し遂げれず、仇である蜘蛛に惨めにも殺され、今までの事がまるで無意味だとでも言われているかのようなこの状況で。
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