LOVE MODEV

□DREAM TIME 
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東京都下の静かな住宅街。その一角にある日向家は、外観だけならごく普通のどこにでもある中古庭付き一戸建てである。
ところが、この日向家には実はとんでもない秘密があった。その秘密の中核となる地下、地下室ではなく文字通り地面の下にある、日向家地下秘密基地。訳あって住み着いた居候の宇宙人が、今日も仲間と悪巧みをしている場所である。


「おお、完成でありますか!さすがはクルル曹長」
「抽象的な概念だからな。インプットするのにほんの少しばかり苦労したぜェ〜」
「軍曹さん、これ一体何ですか?」
悪巧みこと、別名・地球侵略作戦にまつわる新兵器を囲んでいるのは、隊長のケロロ軍曹、クルル曹長、タママ二等兵の三人だ。
「まあ、簡単に言えば自己啓発装置……みたいな?」
「自己啓発って何ですかぁ?軍曹さん」
「ん〜と、自己を啓発する装置?だよね?クルル」
うまく説明出来ず開発者に話を振るが、その当人は怪しげに笑うのみだ。
「よく分かんないですぅ…どうやって使うんですぅ〜?」
タママの問い掛けにニヤリと薄ら笑いを浮かべ、ケロロは入り口を指差した。
「まぁ待っていたまえ、タママ二等。もうじき実験台…もとい被験者がやってくるであります」
と、タイミングを計ったように、すぐにそのハッチが開いた。
「ケロロ!新兵器が完成したとは本当か!」
現れたのはギロロ伍長。大きく吊り上った目をギロリと動かし、三人の姿と彼等が取り囲んでいる装置を見咎めた。
「おお、ギロロ、待っていたでありますよ!」
不気味なほど愛想よく手招きし、ズカズカと近付いてきた男に、装置を見せびらかした。
「…これがそうなのか?」
でんと置かれた大きな箱の上から真っ直ぐにアンテナが伸びている。隣にはコードと巨大なバッテリー。一見しただけでは何の装置で何が出来るのか、予想もつかない。
「おいおい、こう見えてもなかなかの優れモノなんだぜェ〜?」
開発者クルルの意味ありげな笑い声に顔を顰めていると、スポッと軍帽に何か当たった。
「ハイ、そんじゃ早速、試してみるであります」
どこから持ち出したのかヘルメットのような被り物が、今自分の頭をスッポリ覆っているのが分かり、ギロロは怒鳴った。
「こら!ケロロ!何をする…っと、取れないではないか!おい、クルル!」
叫ぶギロロの前で、箱のボタンがポチッと押された。
「おっと、隊長たちもすぐ離れた方がいいぜぇ〜強力なエネルギーが発生する…巻き込まれるぜェ〜クックックッ」
うぃぃぃん、うぃぃぃん、と装置が作動し始め、慌ててケロロとタママは物陰まで遠ざかる。
「おい、コラッ貴様ら!」
ヘルメットが脱げないことが分かると、ギロロは装置ごとビームライフルで破壊しようと銃を構えた。
「うっ!ぐわぁ〜!?」
突如ぐらんぐらんと頭の中で大波が起きる。
「あわわ、大丈夫なんですか?」
大きくよろめくギロロを不安げに見つめ、タママがケロロに問い掛けた。
「自己啓発…のハズだから、たぶん…ねぇクルル曹長?」
自信のないケロロは、またもやクルルに話を振る。
「ク〜ックックッ…まあ失敗しても死ぬことはねぇよ…結果が楽しみだゼェ〜」
頭を抱えて倒れたギロロは、ぴくりとも動かなくなった。
ちょうどその時。
「こらぁ〜ボケガエル!あんたお掃除が途中になってるじゃない!」
学校から帰宅した夏美は、リビングに放置されたままになっていた掃除機を見つけるや、地下基地までケロロを取っ捕まえにやって来たのだった。
「ゲロッ!夏美殿!ダメっ、こっち来ちゃ!」
ハッチから登場した夏美は、ケロロの言葉より先に倒れているギロロを見つける。
「ちょっとギロロ、大丈夫!」
駆け寄る夏美がケロロの制止に気付く前に、ギロロの頭上のヘルメットに触れてしまった。
「きゃっ!」
バチバチと一瞬、感電したような衝撃が走り、夏美はその場にバッタリと倒れた。
「た、大変ですぅ!ナッチーが」
「な、夏美殿!クルル!装置止めて止めて!」
慌てる二人を尻目に、クルルは口元に右手を当て彼独特の笑い声を零しながら、ムリと言う代わりに左手を左右に振った。
「発動させちまったらキャンセルは出来ないんでねぇ〜」
「じゃあ、夏美殿は…」
クルルはこのアクシデントの愉快さに込み上げる笑いを、隠そうともしなかった。
「ク〜ックックッ…意識がギロロ先輩と同じ世界にスッ飛んだ計算になるなぁ〜」
「それってどういうことになるんですぅ?」
ケロロとタママを交互に見やり、クルルはニタリと口角を引き上げた。
「さぁな。日向夏美の混入はバグと同じだからな。プログラムにどんな変化をもたらすかは、俺様でも予測不可能だぜ。ただギロロ先輩の自己啓発自体が、夏美に左右されるのは間違いないだろうなァ〜」
そして、これはますます結果が楽しみだぜ〜と呟きながら、倒れている二人を横目でチラと見た。
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