LOVE MODEV

□日記小話 
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何だかイライラする。
特に思い当たる理由はないの。
けれど、何でだろって考えていると、余計にイライラしてきちゃう。
冬樹はあたしの弟を長くやっているだけあって、察しがいい。
もう、とっくに何処かに避難しているみたいだった。
普段はぼんやりしているクセに、こんな時だけ素早いんだから。
しかも、ボケガエルまで一緒に逃げちゃって!
何よ、まったく、もう。
ああ、イライラする!


「夏美」

あたしは小さく悲鳴をあげた。
いつのまにか、ギロロが後ろに立っていた。
いきなり声かけるなんて、ちょっとビックリするじゃないの!
文句のひとつも言いたくなって、あたしは持て余すイライラをギロロにぶつけようとした。

「庭へ来い」

そう言うなり背中を向けられ、あたしは文句すら言いそびれて。
待ちなさいよ!と思いながら、急いでその背中を追い掛けた。

「あ、このにおい…」

空は茜色。吹く風は涼やかに秋の気配を運ぶ。
その秋風に乗って、あたしの心をソワソワさせるアノにおいが。

「オイモ…」

パチパチと上がる炎の向こうで、ギロロがあたしを呼んでいる。

「今年の初収穫だ。そろそろ焼けるぞ」

うん、においで分かる。
甘さを含んだ芳ばしいオイモの香りが、あたしの感覚すべてを喜ばせてくれる。

「美味しそう〜〜」

イライラは何処かに吹き飛んでしまったよう。
あたしはだらしないくらいニタニタ笑いながら、ギロロの隣に腰掛けた。

「もう、オイモの季節なんだね〜」
「まあ、まだこれからだがな」
「ところでギロロ、初収穫って、あんたどっかでオイモ作ってるの?」

途端、ギロロはブロックからころげ落ちそうになったので、あたしは慌てて引っ張りあげた。

「い、い、いや、だ、だ、誰がイモなんぞ、つ、つ、つ…」

いったいどうしちゃったのか、ギロロはどもりながら何かを訴えている。

「まあ、いいわ。今年もあんたの焼くオイモが楽しみなだけだから」

焼きたてのオイモをはふはふと頬張りながら、あたしはそう言って笑ってみせた。
あんたのオイモは凄いのよ。
あたしのイライラも即刻治しちゃうんだから!

そうだ、今夜はビーフシチューにしよう。
冬樹もボケガエルも喜ぶかな。
あんたも食卓に誘うからね。
今度はあんたがあたしの誘いに乗ってよね、ギロロ。

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