short story

□手つなぎデイズ
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前回までのあらすじ
カイト兄大好きでオレ嫌いな手のひらリンだったのだが、二人きりのお留守番で少しだけオレとリンの距離が縮まった…のだが。

あれから何ヶ月か経った。前回あんな事そんな事があったのでもっとオレとリンの距離は縮まっていると思いますよね。だけど…

「うきゅーかーにいぎゅー」
「あはは!リンちゃんくすぐったいよー」
「すきすきかーにい」
「ありがとうリンちゃん」

こんな感じにカイト兄とリンは前よりも仲が良い…というかバカップルとしか思えない。何故だか分からないがリンのカイト兄への愛が今まで以上に大きくなった気がする。
そんな事を考えているとキッチンから妙な匂いがした。なんかツンとくる…ネギの匂いだ。
キッチンに向かうと案の定ミク姉で鍋の中に入っている得体の知らない物をお玉でかき混ぜていた。

「ミク姉何作ってるの…?」
「何って…七草粥だけど」
「『ネギ』は『七草』じゃないじゃ…というか今日は8日だろ?」
「じゃあ『初音ミク特製七草粥』って事で」

そういう問題じゃないんじゃないかと思ったけどそんな事言ったらネギを振り回しそうなのでやめた。でもこんな物食べて一年の健康を願わなければならないのかよ。そもそもご飯係はカイト兄のはず。何故ミク姉に任せたし。
そんなこんなで七草粥を作り終えたミク姉はお椀に盛り付けてご飯だよー!と叫んだ。

「七草粥っぽいけど珍しい匂いだね」
「ななきゅさ?」
「このお粥には健康になれるおまじないが入っているからちゃんと食べるんだよー」
「くうー」

カイト兄はリンに簡潔に説明するとリンは嬉しそうに頷いて大きく口を開けた(一人ではスプーンが掴めない為誰かに食べさせてもらっている)。
それを見ているオレは七草粥を一口食べた訳だがネギの味しかしなくて気持ち悪くなった。ミク姉はいつの間にかパクパクと全てを平らげていた。

「はいリンちゃんあーん」
「あーん」

はいはい、このお二人さんはどこまで二人の世界を作ったら満足するんでしょうかね。リンはカイト兄とミク姉以外からは基本食べさせる事はしない。オレも一回くらいしかした事がない。
そう考えてた時…

「り、リンちゃん⁉」

オレはカイト兄の叫び声で我に返った。状況を見るとそこにはお腹を抱えて唸りをあげて苦しそうにしているリンがいた。

「リンちゃん大丈夫⁉」
「おなかいたーうう…」
「そっか…じゃあ僕は急いで応急処置のエネルギーを探して来るからミクはマスターに連絡お願い、レンはリンちゃんを部屋に連れてって様子見ててあげて?」

とカイト兄がそう言うとオレとミク姉は頷いた。




「リン大丈夫か?」
「だめー…」

オレは手のひらにリンを乗せて部屋に連れて行った。リンはぐったりしていてとても辛そうだった。七草には何も異常はないはずだったので恐る恐る聞いてみた。

「ネギダメだったのか?」
「つんつんしたーむわーしたー」

やっぱりネギか…あんな小さな身体にあんな不味い粥を入れる事自体想定外なのに。
するとリンは小さな手をオレに向けた。

「てー」
「手を繋ぎたいって事か?」
「むん」

とてもリンにしては珍しい…まあ身体的にも精神的にも弱っているから誰かに頼りたいんだろう。だけどこんなに小さい手をオレが握ってもいいのだろうか…とか思っている間にいつの間にかリンの手がオレの指を握っていた。

「れーのて、あったかー」
「これ指だから、さあもう寝ろ」
「ぶーぶー」

リンはさっきまでの苦しそうな顔とは違い、今では安心した顔…いつものリンに戻っていた。
リンは最初は寝る事に悪態を付けついたがだんだんと目を閉じて行き眠りについていた。
そんなオレは小さな手に掴まれて心臓がバクバクと鳴っていた。というかいきなり手を繋ぎたいとかあんな我儘娘に言われたら誰もが焦るだろう。毎日こんな風にオレにも甘えてくれないかなとか思った。ところでカイトにもミク姉もマスターも遅いな…だったら……
オレはリンを起こさないように額の髪を退けて、一瞬にして小さな額に唇を付けてみた。これはただの好奇心って事にしといてくれ…
唇を離すとオレは顔が真っ赤になったのを感じてリンの寝ている小さい布団に顔を埋めた。何やってんだオレ…


またキミのおかげで小さな幸せが増えてしまった。

キミとの小さな幸せがどんどん増えていって大きな幸せに変わるんだろうなとふと考えてしまった。








その後うっかり寝てしまったオレはリンの枕元にあった誰かが激写したさっきの恥ずかしいシーンの写真を見てまた顔が真っ赤になるのだった。






おわり
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