short story

□始まりの始まり
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「にゃーおにゃーお」
私の目の前で少女が黒猫と戯れている。少女は私の事なんて気にもしないでただ黒猫の真似をしていた。少女は内巻きに巻いた金髪、セーラー服のようなワンピースを着ていて、横顔はまだあどけなさのある可愛らしい顔つきだ。地毛の金髪はとても珍しくて近所でも有名だった。だけどこの子…いや、この子『達』は周りの子供達よりも何かが違う気…
「ねえ、ルカちゃん」
いきなり少女が私を呼んだので一瞬肩がビクリと動いた。気付いてないかと思った…最初から気付いてたけど気付かないフリをしていたのかしら。
「なあに、リンちゃん」
私は落ち着かせる為に一息吐くとなるべく優しい声で発した。
「あのね、『レンくん』がまた死にたいって言ってたの」
「…」
私は少女…リンちゃんの発言に一気に身体に緊張が走った。また彼は死に追いやられているのかと思った。でも彼が死にたいと言ったのは今日が初めてではない。
彼…レンくんはリンちゃんの双子の片割れだ。だけどリンちゃんとは対象的にレンくんは誰とも喋らず、誰にも心を開かず、ただ歌を歌っていた。彼の声は天にまで響いているんじゃないかと思ってしまうくらい恐ろしく美しい。周りからも評判があるけど難点はやはり喋らない事。リンちゃんには話すらしいけど私は一度も彼とは会話をした事がない。
「レンくんね、早く自由になりたいんだって、一人になりたいんだって」
「そう…」
私は震わせる肩を必死に両手で押さえながらリンちゃんの口からレンくんの思いを聞いた。レンくんはリンちゃんに思いを伝える。だけどそのセリフも毎度同じだからだんだんとそれはただのリンちゃんの想像なのかと思ってしまう。それでもどうしてそこまでしてまだ齢9歳の幼い子が自由になりたいだの、一人になりたいだの、死にたいだのと思うのだろうか。私には理解できなかった。やはり両親が突然姿を消してしまったからなのかもしれない。


リンちゃんとレンくんの両親は突然死んでしまった。殺されたと言った方が正しい。私は元々二人のお母さんとは高校の先輩後輩でたまに今通っている大学の愚痴を聞いてもらう為によくお世話になっていた。なのでリンちゃんとレンくんの事もよく知っていた。明るく仲良しな双子だった。
だけど変わってしまった。両親が死んだ日から変わってしまった。
私が偶然にも家に来ると、変わり果てた姿の両親がリビングで倒れていて、その近くには両親に抱き付いていたのか赤く染まったリンちゃんとレンくんがわんわんと泣いていた。ただ私は震える腕で二人を抱き締める事しか出来なかったの。そして二人の面倒を見るって決意した。先輩の為にも命を賭けて守るって決めたの。だけど二人は何かが変わってしまった。



「あ、でもね」
リンちゃんの思い出したような弾んだ声で我に返るとリンちゃんがニコッと笑いながら私を見ていた。
「レンくんね、死にたいって言った後『ごめん、やっぱり嘘』って言ってくれたんだ。リンが『本当?』って聞いたら『うん、もちろん』って言ってちゅってしてくれたの。リン嬉しくなってレンくんに抱き付いちゃった」
「良かったわね」
「うん!」
リンちゃんは本当に嬉しそうだった。リンちゃんの幻覚だとしてもレンくんだけは失いたくないみたいだ。私はそれも毎度の事だと思っているけど、それだけは一番安心した。二人の絆だけは変わらない。そう思ったの。
「さあもう帰りましょうか」
「うん!猫さんも寝ちゃったし」
私はふとリンちゃんとじゃれていた黒猫を見て見ると寝ているのかと思いきや円らな瞳でこっちを見ていた。まるで一人にしないでと訴えるかのように。
私は気味が悪くなってすぐに黒猫から目を逸らした。
リンちゃんはまた来るからねーと黒猫に手を振ると私の手を握った。リンちゃんの手は小さくてとても冷たかった。レンくんがきっと歌いながら待っててくれてるよ!とリンちゃんは話してくれたけど私の頭の中では黒猫の表情が変に残っていた。



次の日、黒猫の様子をリンちゃんと見に行くと私は息を飲んだ。
黒猫は死んでいた。リンちゃんが撫でても揺さぶっても全く動かないのだ。きっと冬の寒さに一人じゃ耐えきれなかったのだろう。
リンちゃんは地面に穴を開けて黒猫を埋め、どこから持って来たのか分からなかったけど嫌に真っ赤な一輪の花を取ってきて地面に刺した。地面が白い土だったので真っ赤な花はとても目立った。リンちゃんと私はしゃがんで手を合わせるとリンちゃんは立ち上がって即席の墓を眺めた。
「あーあ、死んじゃった、アンデルツェ」
「アンデルツェって…?」
私はリンちゃんに尋ねると、リンちゃんは笑顔で言った。
「昨日、リンがレンくんに猫さんの事話したらレンくんが猫さんに名前付けてくれたの」
「それがアンデルツェ?」
「うん!レンくんは『きっと僕と同じ仲間なんだろう』って言ってたよ、レンくん猫さんじゃないのにね!」
私はリンちゃんの話に言葉が出なかった。同じってどういう事?レンくんもこの黒猫と同じ運命を辿るの?そもそもレンくんは何を考えているの?リンちゃんにしか言えない事なの?リンちゃんはそれをどう思っているの?

彼らは何処に進んでいるの?

私はただリンちゃんの乾いた笑い声と微かに聴こえたレンくんの歌声しか耳に入らなかった。


アンデルツェ…あなたはこの死で何を言いたかったの?
教えておくれ…






**********


オワタP様のアンデルツェを自己解釈してみました。なのですが曲すら入っていないですねすいません!
ほんのりとベンゼンシリーズも入っているので鏡音の狂いっぷりが異常です。でもこういう病んだ話は初めてなのでとても楽しかったです!
これを書くきっかけになったのはオワタP様の4thアルバムのトラック17.18.19の流れが本当にもう好きすぎてですね、気持ちが抑え切れずに書いてしまいました。アルバムを持っている方は共感してくれるだろうと信じております!

もちろん続きの方も長々と書くつもりですのでお楽しみに。
アンデルツェを聴いた事のない方はこの機会に聴いてみてはいかがかと思います。オワタP様の引き出しはどうなっているんだ…

では読んでいただきありがとうございました!

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