short story

□キスコミュニケーション
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『今日帰ってきたら良い事が起こります!お楽しみにね!』

昼休みに母さんが送ってきたメールにそんな内容が記されていた。良い事ってなんだ?また母さんの嫌がらせか?いつもみたいにバナナが箱ごと送られてくるのだろうか?それは流石にやめてもらいたい。
そんな事を考えながら最近一人暮らしを始めたアパートに着いてポストを確認すると白い封筒が一通。送り主は…母さん。メールで言ってた良い事の前触れなのかもしれない。僕ははあ、と溜息を吐くと自分の部屋がある二階へと続く階段を登った。
どうせバナナだろ?と思いながら登り終えると自分の部屋に行こうとしたら何かの異変に気付いて足を止めた。なんだあれ…僕の部屋の前に何かある…否、いる。僕は目は悪いけどメガネでとりあえず視力はカバーしているから錯覚ではない。けど錯覚だと信じたかった。
遠くから見て、あれはバナナが入ったダンボールの箱でもなんでもない…あれは正真正銘の人だ。

僕の部屋のドアの前に女の子が体育座りでいました。




そんな訳で少しの間僕は何故か階段にとっさに隠れて女の子を観察していた。だが一向に動く気配がない。というか上を向いて空なんか見てる。どうするべきだろうか…というか金髪に白いリボンはいくらなんでもこの地味なアパートでは目立ちすぎる、僕も金髪なんだけど。そして女の子の側にはオレンジ色のボストンバッグなんかが置いてある。
僕はもしかしたら部屋を女の子が間違えているのではないかという事で勝手に解釈すると、恐る恐る女の子に近づいていった。ゆっくり進んだけどそれでも一分もかからない内に女の子に辿り着いてしまう。それでも女の子は空を眺めている為か僕には気付いていない。僕はさっきとは違う溜息を吐くと意を決して声をかけた。
「あ、あのー…ここ僕の部屋なんですけと…部屋間違ってますよー…?」
僕は自分でも情けないと思えてくるくらい声が裏返りながら声をかけると女の子は顔を僕に向けた。よく見ると女の子の瞳の色が青空みたいに真っ青で綺麗だと思ってしまった。僕も青い瞳なんだけど黒に近い青の瞳だから少し羨ましかった。
そんな事を考えていたが女の子はずっと僕を見ているだけで何も起こらなかった。僕はだんだんとはてなマークが頭の中で浮かんできた。
「えええっと僕の顔にに何か付いてますか……?」
そう言って僕が首を傾けようとしたその時、いきなり僕の身体に衝撃が起こった。それと同時にギュッと何かがか体に巻きついてきた。僕の肩の上に女の子の顔…僕は一瞬ボケッとしていたが今の現状を把握すると顔が熱くなった。
見事に女の子に抱き締められていた。
「ちょ、いきなりなんですか…!どいてください!」
僕は必死に女の子の肩を押して身体から剥がそうとしたが女の子はビクともしなかった。なんという力なんだ…人が着たら絶対やばい、どうしようか…と僕はそう考えていると女の子の力が緩んだ。やっと開放される、と僕がそう思ったと同時にに女の子の顔がこちらに近付いてきた。そして、僕の頬に未知の柔らかさがチュッと音と共にきた。…なんだ今の…と思っている間もなくてもう片方の頬にも同じ事をした。思わずうわ、と変な声を出してしまったがそれでも女の子はやめなかった。
…僕は女の子に『キス』されている事にやっと気付くと無意識に女の子の頭を手で抑えると女の子は口を尖らせたまま動きを止めた。
「本当…なんなんです…?警察呼びますよ?」
僕は優しくもキツく言うと何故か女の子はニッコリと笑った。

「申し遅れました!今日からお世話になりますリンです!よろしくねレン!!」
僕は突然の女の子の言葉になんの事だかサッパリ分からなかった。




『ドアの前に女の子がいるからこれから面倒見てあげてね!』
と書かれた白い封筒の手紙を見て僕は頭を掻いた。いきなりそんな事を任せられても迷惑だ。そう思って送り戻そうと母さんの携帯に電話をかけたが全く反応がなく、自宅にも電話をかけても出る雰囲気はなかった。なんなんだ…
するとあの…、と女の子に声をかけられた。あ、とりあえず近所迷惑なると思って女の子を家に入れた。事が済んだら追い出すつもりだけど。すると女の子は白い封筒を僕に差し出した。
「おばさんがこれをレンに渡せって言ってました!」
「ありがとうございます…」
僕は女の子から手紙を受け取ると嫌な予感しかしない封筒の封を丁寧に開けた。開けるとぎっしりと母さんの字が書かれた手紙が入っていた。久しぶりに母さんの文章を見た。母さんは基本面倒臭がりなので文章…字すら書かない。
そんな事を考えながら僕は手紙を読み始めた。

『拝啓鏡音レン様
こんにちはママです。これを読んでいるって事はリンちゃんに無事に会えたって事だよね、良かったです。唐突で悪いんだけどリンちゃんをレンのうちで預かってくれない?元々はママとパパが面倒見てあげてたんだけど用事があって家を離れる事になったから少しだけ面倒見て欲しいんだよね!リンちゃんはつい最近日本に初めて来た子だから一人じゃ心配なんだよね。でもリンちゃんは正真正銘の日本人です!という訳でレン、女の子と花の同居生活を楽しんでね!あ、そうそうリンちゃん外国育ちだからキスが挨拶代わりだし、しないと落ち着かないみたいだからこまめにキスしてあげてね!
ママ 敬具』

なんだこれは…僕は手紙を読み終えて今日何回目かの溜息を吐いた。女の子を見るとニコニコと笑って来て口を尖らせたまま僕に近付いて来たので慌てて避けた。とりあえずこの子は今行く当てがないって事は分かった。というかどうして僕なんだ。他に頼めば良かったのに、という苦情ももう言えない。すると女の子は僕に近付いて来た。僕はまたキスされるのかと一瞬構えたが、女の子の顔を見て構えるのをやめた。
「レン…リンここいちゃ駄目なの?」
と今にも泣き出しそうに聞いてくる女の子を見て今までのイラつきや迷惑な気持ちもなんだかなくなってしまった。
「…母さんと父さんが帰ってくるまでなら…構わないよ…」
「ほ、本当?」
「うん…あ、でも!すぐにでも何か面倒な事起こしたら追い出すから!」
と言うとありがとう!と言いながら女の子は僕に飛びついて来た。そしてまたチュッチュと頬や額などにキスされてしまって僕は抵抗したかったが力が抜けてしまった。



こうして僕と彼女の生活が幕を開けた。
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