short story

□キスコミュニケーション
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カーテンの隙間から覗く光が眩しくて僕は目を開けた。外からは小鳥の囀り。いつも通りの朝がやって来てまた一日が始まろうとした。いつもはこのあとそのまま起きて朝ご飯も食べずに学校へ行って朝の補習…という流れで行くんだけど。今日はいつもと違う。
だって女の子が僕と同じベッドで寝ているからだ。
皆さん、勘違いしないでください。僕は一人でベッドを女の子に貸して床で寝ようとしたんですよ。でも女の子が僕に抱き着きながらキスをせがんで来て動けなくて、いつの間にかそのまま眠ってしまったんですよ。それだけです。
そんな訳で僕は女の子に抱き着かれているので身動きが取れなくて起きれなかった。僕は女の子の肩をポンポンと叩くと声をかけた。
「起きてください…朝ですよ」
「むにゃ…朝…?」
「そうです朝です、今日からあなたも学校なんでしょ?」
そう言ってあげると女の子はガバッと起き上がった。多分『学校』という言葉で反応したのかもしれない。寝るまで学校について教えていたからそれで興味を注いだのかもしれない。女の子は昨日やっと学校の手続きを終えたらしい。しかも僕と同じ学校。だけど僕の通う学校は名門校。女の子に知能がどれほどあるか分からないが、母さんなんとかしてくれたのかもしれない。



こうして女の子はゆっくりながらも起き上がって制服に着替え始めた。僕は女の子と一緒に着替えるのは抵抗があったのでキッチンで着替えた。着替えてる途中でキスを迫られたら溜まったもんじゃない。
着替え終えて眼鏡を掛け、物差しを取り出してキッチンの端っこにピタッと背中を合わせると背を測る。端っこに貼った昨日の背の長さの印のテープと今計ったのと同じ位置でまた今日も僕の気分は最悪状態だ。
それを終えるとダンボールの箱からバナナを二本取り出すと制服を着替え終えてクルクルと回っている女の子に一個渡した。彼女は受け取ったがキョトンとした顔で僕を見た。
「ねえリンはバナナでもいいんだけどレンって昨日の夜ご飯もバナナだよ?」
「僕はこれだけで保ちますから、心配しないでください」
「そっかあ…」
女の子はそう呟くように言うと俯いてしまった。
僕は元から少食って事もあるけど、ぶっちゃけ一人暮らしだし、料理作るとか面倒臭いのである。最近は朝は食べずに昼は学校の購買、夜はコンビニの弁当で済ませてしまっている為、あんまり健康的とは言えない。というか女の子が増えたからもっとバイトも入れなくてはいけないし、勉強しなくてはならないし、食べる時間があったらどれだけの時間が…
「レン?」
と呼ばれて我に返ると女の子な顔が僕に迫ってきた。僕は彼女の行動を読むと瞬時に避けた。だけど抱き付いてきたので結局頬にキスされた。僕は思わず声を上げた。
「なんで朝からキスしてくるんですか…!」
「え?朝の挨拶だよ?変なの?」
「変です!」
女の子にはまず日本の常識から勉強させなきゃなと僕は思った。




「かっわいいなーリンちゃんって言うのかかっわいいなー」
「ちょっとミク先輩邪魔しないでください!バイリンガルな転校生をカメラに収めるんですから!」
僕の目の前では教室で先生と話している女の子を見る為に、この教室にはいない二年生の先輩とカメラを日夜持ち歩いているクラスメイトがいた。そもそもどうして先生は女の子を僕とクラスを一緒にしたのだろうか。僕は癖になってきた溜息を吐くと数学のテキストから目を離し二人を見た。
「初音先輩、神威、うるさい。というか初音先輩はなんでここにいるんですか、ここは二年生の教室じゃないですよ」
「別にいいじゃーん!可愛い女の子が現れたんだから気になるんだもん!ね、グミちゃん」
「はい!ミク先輩の言う通りです!いきなりキスされて気にならない人なんていないよ!」
「だからキスは挨拶だって言ってるだろ?」
何を言っているんだこいつら、と思いながらそう言うと僕はまたテキストに視線を逸らした。
女の子は学校に着いた早々目が合ったヤツに必ず頬にキスしていった。生徒先生男女問わず。海外出身と言えば納得するヤツもいるが勘違いして好意を持つヤツも見かける。すると
「お前はあんなにキスされてて好意とかないのか?まあガリ勉だから女には興味なさそうだけど」
「グミヤ…僕はないよ、そんな時間ないし」
ふらっと現れたグミヤが僕に聞いてきて僕はテキストを見ながらそう答えると面白くなさげにグミヤは自分の席に戻っていった。そして未だに初音先輩と神威は女の子を見てはしゃいでいる。
どうしてこんな子なんかにみんな興味を示すんだろう。高が外国から来た転校生じゃないか。
というかどうして僕が他人を世話しなきゃいけないんだ。だったらキャーキャー言ってるヤツらに押し付けたかった。
どうして僕が面倒な事をわざわざしなくちゃならないんだ。
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