short story

□タンポポ
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「リン帰ろ!」
「レ、レンくん…」
新学期のホームルームが終わって早々、レンくんがいつものように笑顔で私の所にやって来てそう言ってきた。
レンくんは私と正反対で明るい性格の為かどこのクラスにも仲がいい人が沢山いて、私の教室にくる度にみんなに声をかけられていた。今日も私の所に来るまでどれほどの人に声をかけられていた事か。これでもレンくんと私は血の繋がった双子の姉弟だ。おどおどしている私はハキハキしているレンくんと成り立つ訳ないのに…といつも思うんだけど、やっぱり一緒にいてくれて安心というか嬉しかったりする。
そんな事でいつもだったらそのままレンくんの後ろをついて行って帰るのだけれど、今日は…
「レンくん…ごめんね、さっき隣のクラスの男の子に呼び出されちゃって…」
何でか分からないけど、と呟くように付け加えて私は苦笑いを浮かべながらレンくんにそう言った。だけど何だか今レンくんと目を合わせてはいけない気がして俯いてしまった。
だって…今のレンくんの笑顔ニコニコしてるけど…こ、怖いんだもん。
「だから…その…先帰ってもいいよ…?」
私は俯きながらもそう言うと頭の上から私にしか聞こえないくらいの舌打ちが降ってきた。レンくんは私が他の男の子と一緒にいるのをとことん嫌う。たまに威圧感をかけられる。だからレンくんは怖い。
「リン…明日はテストだよ?早く帰らないと勉強出来ないよ?」
「は、はい…」
私はさっきより声のトーンが落ちたレンくんの声にビクッとしながら答えた。今のレンくんの声は氷柱みたいな冷たく尖った物が刺さった感覚がした。
「じゃあ帰ろ!リンの隣のクラスの男子にはオレが明日ちゃんと謝るからさ!」
「そそそれだったら…」
レンくんが明日男の子に言ってくれるんだったらいいかなと思い、私は頭の中で男の子にごめんなさいと伝わるように念を送りながら教室から出て行くレンくんの背中について行くのだった。





「おいリン」
「はい…」
「よくもまあオレの前でオレ以外の男の事話せるよな、そんなにオレにキスされたい訳?」
「ち、違うよう…本当の事言っただけなの…」
さっきの笑顔じゃなく、不機嫌な顔をしたレンくんにそう言われて私は小さくなるように肩をすくめた。レンくんはそれを見ると私の手を強引に掴むとそのまま歩き出した。
「レレレレンくん…私、外で手を繋ぎたくないって何度も…」
「お前がオレに指図するなんて早いんだよ」
私はそれを聞いてうう…としか唸れなかった。
レンくんは私だけになるとこうやって意地悪になる。私を見えない糸で縛ってくる。レンくんは私に拒否権なんて与えてくれなくてレンくんの前で自由になれた事なんて一度もなかった。
けど、それはレンくんの愛情なんだな、って最近になって漸く分かってきた。レンくんは私を大切に思っているんだな、って思ったけど…
「じゃあオレの言う事聞いてくれたら許してやるよ」
「ええ!?いつもそればかり…」
そう私が文句を言いかけるとすかさずレンくんは私の手を自分の元に引き、私の額に唇を落とした。…これはレンくんの脅しである。レンくんは私を黙らそうとする時にいつもそれを使う。私はキスをされるとオロオロして喋れなくなるからだ。私は半泣き状態でレンくんを見た。
「今日抱き枕ないからお前それになれよ」
「えっ!?うう…」
「あと」
私は今日の夜が一生来なかったらいいのにと絶望しながらレンくんの要望がこれだけでない事を察して、余計にビクビクした。なんだろ…ずっとキスとかは勘弁してほしいな、昨日ずっとされ続けて途中で気絶しちゃったから。だけどレンくんのもう一つの要望は呆気なかった。
「隣町の土手までついて来い」
「え…」
「行くぞ」
レンくんは私の返事を待たずに私の手を握ったまま歩くのを再開した。私はレンくんに連れられるまま歩くのだった。
レンくんの後ろにいたらレンくんの頭に桜の花弁が付いていたので気付かれないように取ってあげた。






隣町の土手に近付いてきたけど、だんだんと景色がオレンジ色に染まっていた。最近は日が落ちるのは遅くなったけど、多分帰りは真っ暗だろう。そんなに家からは遠くない場所だしレンくんもいるけどやっぱり暗闇は怖い。レンくんにもう遅いから帰ろうよと、隣町に向かう間に何度も言ったけどレンくんは聞く耳を持たず、黙ってろとでも言うように睨まれるだけだった。
「ここだ、見てみろ」
レンくんに手を引かれながら土手を上がってきたけど、だいぶ体力を使っていて息が切れていて、レンくんが指差した方を見るのは正直キツかったけど、折角レンくんが連れてきてくれたんだ、と思い顔をあげるとそれを見て私はふお…と声を漏らした。
土手の下には黄色い何かが一面に広がっていて、夕焼けの光でそれが輝いていた。
「綺麗…タンポポ……?」
「ああ、リンがいない時一人で歩いてたら偶然見つけたんだ」
私は美しいタンポポ畑の未知の体験に数分それに見とれていた。レンくんは私にそれを見せたくてここまで連れてきてくれたんだ…
そう思い、私はレンくんにお礼を言う為に彼の方を向くと、レンくんはなんだか寂しそうな顔をしていた。どうしたんだろ…綺麗な景色なのにどうしてそんな顔してるんだろう。初めて見るレンくんの表情に私がオロオロしてしまって思わずレンくんの握っていた手をギュッと強く握り返してしまった。するとレンくんはこっちを不機嫌そうな顔で見てきた。
「いてえよ」
「ご、ごめんなさい…でも…レンくん寂しそうだったから…」
「本当お前うざい」
そう言いながらレンくんは私を抱き締めてきた。私はどうして抱き締められているのか分からなかったけど、レンくんの温もりに身を預けてみた。レンくんは少しだけ震えていた。
「今、こうやって綺麗な景色を見てるとそのまま世界が滅べばいいなとか思った、そしたらリンと他の男が話す所を見なくていいし」
「レンくん…」
そうやって、いつもの意地悪な印象とは違う弱々しい声でレンくんは言った。私はレンくんから離れられないよ。離れたくないよ。そう言いたかったけど伝える事が出来なくて、でもそれがもどかしくて、いつの間にか私は背伸びしてレンくんの唇に自分のそれを重ねた。いつもレンくんからキスを迫ってくるのでレンくんは私からされて一瞬だけビクッとしていた。
私はすぐに唇を離すと顔を隠すようにレンくんの胸に顔を埋めた。
「リン、お前からキスするなんていい度胸じゃねえか…顔あげろ、キスし返す」
「嫌です…」
私はギュッとレンくんに抱き付くと優しく抱き返してくれた。
レンくんは意地悪なのか優しいのかさっぱり分からない。でも一番に分かる事は私はレンくんが大好きで、レンくんも私が好きって事。それが愛しいの。本人に伝えたら絶対馬鹿にされるか、抱き付いたまま離してくれないと思うから言えないけど。
「レンくん…」
「あ?」
私は顔を隠しながら呼ぶとレンくんは返してくれた。
「レンくんは世界が滅べばいいとか思ってるかもしれないけど…私は……レンくんとこういう事出来なくなっちゃうからい、嫌かな…って思ったよ…?」
「リンは馬鹿だからな」
私はそう言われてこれでも真剣に言ってるんだよ、と伝えようと顔をあげた。するとレンくんの顔が近付いてきて私はしまった、と焦る前に本日二回目のキスをした。横からは夕焼けに照らされていて自分達が輝いている感覚がした。昨日何度もお互いの唇を交わした時よりも今したキスは強引だったけど一番甘くて幸せで切なかった。
唇を離すとレンくんは私を真剣に見てきた。
「そういう事言うのはオレだけにしろよ、『今』はオレのリンなんだからな、まあオレにとっての『今』は『一生』だけどな、…リン愛してる」
「はい…」
レンくんはそう言うと、私の手をまた握ると元来た道を歩き出した。私はタンポポ畑の方を見ると、既に夕焼けは沈んでいてタンポポも輝くのを止めていた。
明日も行きたいとか言ったらレンくんは一緒に来てくれるのかな。私はそんな事を考えてレンくんの話を聞きそびれて、結局三回目の唇合わせをする羽目になってしまった。


レンくんとのこんな日々が、一生続いたらいいな。




おわり





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久しぶりにこんなイチャイチャな鏡音書きました…!年に数回の鏡音フィーバーがやってきたのでその波に乗っかって、「キンモクセイ」の続編を書かせていただきました。
このお話の続きは何度も書こうと考えていましたがタイミングが掴めず…今の桜シーズンを狙いました。結局タンポポだったけどw
この二人が好きすぎて辛いです…おどリンちゃんかわいいです。レンくんは自然大好きです。

では最後までお読みいただきありがとうございました。

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