short story

□仲良しこよし
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「というわけで今日だけ私とリンちゃんをあなたの家に置いてほしいの」
「いきなりそう言われてもさ…困るんだけどそういうの…」
僕は目の前で小さな鏡音リン(所謂ロリン)を大事そうに抱きかかえた普通の鏡音リンにそう頼まれて呆れながら溜息をついた。他の鏡音に言えば事は収まる筈なのにどうして『KAITO』な僕なんかに頼むんだ…僕は今から数分前を思い浮かべてみた。





僕はマスターのレッスンを終えて自分のフォルダに戻るといきなりドンドンとフォルダを叩かれる音がした。僕は思わず体をビクッと震わせて叩かれている場所に振り返るとそれと同時に「カイト、いるんでしょ!?開けなさい!」と聞き慣れた明るくハリのある女の子の声が聞こえてきた。だがしかしいつもより声のトーンが低い。それを聞くだけで彼女が不機嫌なんだと分かった。
僕は急ぎ足でフォルダの入り口を開けると予想的中で鏡音リンがいた。おまけにロリンが一人。やはり鏡音リンはもの凄い眉間に皺を寄せていた。
僕と目の前にいる鏡音リン+ロリンは全くの他人だ。他所のボーカロイド。たまたま仕事が一緒になり、それで仲良くなったわけだが、それを利用して鏡音リンは相方の愚痴を言いにここにやってくるようになった。こちらとしてはありがた迷惑。どうして関係のない僕がよく分からない愚痴を聞かなければいけないんだ。すると鏡音リンは怒りを散らすように叫んだ。
「今日こそあの変態バナナ許さないんだから!またリンちゃんに手を出してきて…!」
「レンはそんな子じゃないと思うんだけど」
「そんな奴なのよ!カイトは分からないの!今日なんてリンちゃんの胸触ったのよ胸!」
僕はまた溜息を吐いた。このリンとレンはあまりにも仲が良くない。僕が見る限りはレンはリンと仲良くなりたそうだったけどな。
「それに私はイラっと来たから自分の家から飛び出したのよ、あの変態と同じ場所にいるだけで気が狂いそう」
「そこまで…」
僕はつくづく毎日一緒にいるロリンが可哀想だと思ってしまった。





そんな訳で今に至るのだけど、結局僕はリンとロリンを家に入れてあげた。
「ねえ、喉渇いたんだけど」
「はいはい…オレンジジュースでいいんだよね」
「そうに決まってるじゃない」
リンは当たり前のようにそう言うといつの間に持って来たのか僕の大切にしていたアイスキャンディをガツガツと食べ始めた。
「もう…冷たいの食べすぎないでね、あ、リンちゃんはなに飲みたい?オレンジジュースでいい?」
「…いらないです」
今日初めて聞く可愛いリンちゃんの声はなんだか消えてしまいそうな弱々しい声がした。どこか痛い?とか眠い?とか聞くもただリンちゃんは首を横に振るだけだった。リンに助けを求めようにもやけ食いしている奴を邪魔する気にもさらさらなく、ただリンちゃんの頭を撫でる事しか出来なかった。すると
「…リンお姉ちゃんとレンお兄ちゃんはどうして喧嘩ばっかするのかなあ…」
とリンちゃんは呟くようにそう言った。
「う、うーん、仲は悪くはないと思うんだけど…どこかですれ違ってたりとかだと…」
「それはリンの所為なのかな…」
リンちゃんはそう泣きそうになりながら言った。そうか…リンちゃんは自分を責めているんだ、よくよく考えたら巻き込まれたのはリンちゃんなのに。
「大丈夫、リンちゃんの所為じゃないよ、悪いのはリンちゃんを悲しませる二人が悪い」
「リンお姉ちゃんとレンお兄ちゃんは悪くないもん…リンの所為だもん…うっひっ」
リンちゃんはとうとうすすり泣きを始めてしまった。マズイ…これはマズイ。僕は背中を摩りながら泣き止ませようとしたが結局リンちゃんは大声で泣き出してしまった。
「うわあああああああああああんリンお姉ちゃんうっくっレンお兄ちゃんぐずっ」
「リンちゃんどうしたの!?」
するとリンがリンちゃんの声に気付いたのかこっちにやってきて、状況を(悪い方に)把握すると手をボキボキと鳴らしながら僕に近づいて行った。
「あんたも変態だったのね…信じた私が馬鹿だったわ」
「ち、違う…これは誤解です…!」
僕は必死に後ろに下がって行ったがリンとの距離は縮まる一方で、最終的に僕の背中が壁に付いてしまった。
「さあ歯を食いしばりなさい、レン以上にぶん殴ってやるわ」
そう言いながらリンは片方の手で僕のマフラーを掴み、もう片方の手は僕を殴る為にグーにしていた。僕が目を固く瞑って意を決したその時
「やああああああああリンお姉ちゃん、カイトくんを虐めないでええええええええ!」
とリンちゃんがリンの体に抱き着きながら言った。リンはマフラーを持っていた力を弱めるとリンちゃんを見た。
「リンちゃん、こいつはリンちゃんを泣かしたのよ?リンちゃんは優しい子だけどカイトは悪者なの」
どうしてこの子はよくもまあ恐ろしい事を言うな…僕はそう思いながらその光景を眺めていた。
「カイトくんは悪くないもん!悪いのはリンだもん!リンが悪者なんだもん!」
リンちゃんはそう泣き叫びながら言うとそのままフォルダ内を飛び出してしまった。リンはそれを見て呆然とするも青い瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。
「みんな馬鹿ばっかり…レンもカイトもリンちゃんも…私も馬鹿」
「リン…」
僕はさっきのリンちゃんみたいにリンの頭を撫でてあげるとリンは僕に抱き付いてきた。僕は何故かあたふたしたのだが、当の本人は本格的に泣き始めた。リンが一瞬だけリンちゃんに見えてしまったのは内緒だ。
「ちょっとだけ…胸借りるわよひっく…」
「はいはいどうぞ」






「カイトごめんなさい」
「いやいいんだ、久しぶりに退屈しなくて済んだし、あとその体制だとリンが落ちるよ」
僕は深々と頭を下げるレンの体制を戻してあげた。
さっきレンが申し訳なさそうな顔をしてリンを迎えにこちらに訪れて来たのだ。しかし、リンは泣き疲れと日頃の疲れによっていつのまにか僕の胸の中で眠ってしまい、起こすのもなんなのでレンがおんぶする事になった。
「レン、大丈夫なのか?」
「うん大丈夫、リンは軽いから」
と言いながらレンはリンを担ぎ直した。それでもリンは未だ夢の中でレンの背中で寝息を立てていた。
「そういえばリンちゃんは?」
「リンちゃんはうちで寝てるよ。泣き疲れちゃったみたい、『お姉ちゃんもお兄ちゃんもカイトくんもバカー』って泣き叫んでたよ」
レンは笑いながら言った。よかった、泣きながら出て行ったのは本当に焦ったけど無事に元のフォルダに戻ってくれて心の底から安心した。でも
「やっぱり似てるね、リンもリンちゃんも」
「そりゃあリンちゃんはリンから分裂して生まれてきたからね」
「まあそうなんだけどね」
でもまさか台詞まで似てるとは思わなかった。僕はふふっと笑うとレンは首を傾げた。
「なんで笑ってるの…」
「別にいいじゃん?そんな事よりもう自分の所に戻ったら?」
僕はそう言うと、レンはハッとしたようにリンを見た。眉間に皺を寄せていて居心地が悪そうだった。多分同じ体制で眠っていたためか寝返りが出来ずに苦しかったのだろう。
「レンはリンちゃんにデレデレなのは分かるけど、たまにはリンの気持ちも分かってあげなね」
「…分かってるよ…」
僕の話に返事したのか、リンの気持ちを分かっていたのか、レンの呟いた「分かってるよ」の意味がよく分からなかったが僕はふーんとだけ相槌を打った。
じゃあまた会う日まで、とレンはフォルダから出ると同時にそう言った。レンはここには当分来ないらしいが、きっと近い内にリンとリンちゃんがやってくるだろう。
僕は後ろ姿の二人を見て、もっと仲良くしろよ、と苦笑いするのであった。



おわり






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今日はいつも仲良くしてもらっていますフロリンティアPことまっさらさんの楽しい楽しい誕生日です。
ロリンちゃん好きっぽいのでロリンちゃんなお話書いたんですがロリンちゃんあんまり出なかったですごめんなさい。
というか私が「夫婦みたいな鏡音と、ロリンちゃんと、カイリン書きたい気分だ…」とか思って思いついたネタです!はい私得です!!!ちなみにこのフロリンティアPの動画で考えたネタです→これ ロリンちゃんも可愛かったけどお兄ちゃんとお姉ちゃんの関係性に萌えた。あとカイトはフロリンティアPが欲しい欲しいって言ってたので書きました。そして私得。
そんな訳で、また素敵なトクロを作ってください!

マジおめでとう!!!

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