short story
□淡い夢とクローバー(前編)
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「リン、聞いてくれ!」
学校の下校中幼なじみに呼ばれていつものように呆れながら振り向いた。
でも何か違ってた。
いつもより輝きを増した笑顔の幼なじみがいた。
「一番最初にリンに聞いてもらいたかったんだけどオレ…好きなヤツ出来た!」
幼なじみは私に見せたことのない頬を染めた顔で嬉しそうに言った。
「落ち着いた?」
とりあえず興奮気味の幼なじみ−−レンを落ち着かせる為に私の家に招くと、なぜかレンは背筋をぴっしり伸ばしてきちんと正座をしていた。
私はそれを不思議に思っているとレンはいきなり
「鏡音リンさん!オレに力を貸してください!」
と勢いよく土下座をして頼み込まれた。
思わず私は座ってる位置から一つ下がった。
「ちょ、ちょっと土下座しなくても…とりあえず顔を上げて姿勢崩して!こっちが肩こるよ」
「はい…」
私がそう言うとレンは顔を上げて胡座をかいた。
「で、レンの好きな人って?」
「笑うなよ…」
「うん」
レンは一呼吸置いて言った。
顔はやっぱり真っ赤。
よっぽど照れているのか恥ずかしいのだろう。
「初音ミク…」
「えぇ!?」
私はビックリして思わず手に持っていたお茶をこぼしそうになった。
初音ミクは隣のクラスのアイドル的存在で学年問わず人気がある。
「でもレンってついこないだまでどうでもいいです的な目で見てたじゃん」
「そうなんだけど…」
とレンは口をもごもごとしながら語り出した。
「ついさっきなんだけど学校で家の鍵を落としたんだ、鍵にはネームプレート付いてるし誰か届けてくれるだろうと待ってたら初音ミクが届けてくれたんだよ」
「鍵を落とした時点でバカだね」
うるせぇとレンは呟くと話を続けた。
「それで初音ミクの鍵の渡し方ときたら!オレの顔を見ながら『鍵落としたよね?』って上目遣いで言ってきて…オレはもうイチコロでやられた!」
レンは胸を張って言い終えたが私は溜め息しか出なかった。
そんな単純で恋なんてものしてもいいのだろうか…まぁあの学校のアイドルだ、男子が一目惚れするのも珍しくない。
「ほんっと男子ってバカ…」
「はぁ?オレの目は嘘は付かないぜ、初音ミクは優しくて良いヤツだどこぞのデカリボンと違ってー」
「…誰がデカリボンよ!」
私はカチンとくるとレンを手をグーにして軽くポカポカと殴った。
それにレンはバカにしたように笑った。
毎回私達はこんな感じ。
昔から全く変わることのない関係。
私にとっては一番の関係だった。
するとレンは殴っている私の腕をパシッと掴んだ。
レンの顔はさっきと違って少し真剣さがあった。
「協力…してくれるよな…」
私はいつになく真剣な表情に圧倒されかけたが、いつもの笑顔で返事をした。
「当たり前!哀れな幼なじみを救ってあげる!」
「ハハ…意味分かんね…」
いつものように共に助け合う私達。
断る理由なんてないもん。
私は幼なじみの幸せを願ってるから。
でも分からなかったの。
この時に『迷路の森』の入口立ってたなんて。