short story

□淡い夢とクローバー(後編)
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「はぁ…」

オレはポストを見て溜め息をついた。
ポストの中身はからっぽ、毎日欠かさず見ているオレだったがもう諦めというか自分に呆れてしまう。

オレの幼馴染ーーリンは今から半年前に違う町に引っ越してしまった。
だが幼馴染であるオレは全くそんな事知らずリンの引っ越し当日にそれを知り学校から猛ダッシュでリンの家へとかけていった、にも関わらずリンは…
すると

「あ、レンくん」
「おおミクおはよ」

後ろから声が聞こえたので振り向くと
声の主…ミクはおはようと微笑みながら言った。
奇遇なので二人で登校しようとミクが提案したので一緒に行く事にした。

「そういえば今あの人とはどんな感じなんだ?」
「もちろん順調だよ、ミクオったらまたメールで『ミクマジ天使』とか送って来て…」

そう呆れた口調でミクは話していたが表情からは幸せに満ちた笑顔だった。
『あの人』とはミクの恋人。
ミクはやっぱり彼氏一筋なんだな…
オレはなんとなく半年前を思い返した。









「ごめんなさい…私好きな人がいるの」

半年前、オレはミクが好きだった。
ミクに気持ちを抑えきれず思わず告白したが、結果は分かりきった事だった。
ミクに好きなヤツがいる事くらい分かっていた。
毎日見ていればミクが誰かを想っていたくらい。
だけどミクは

「私はレンくんの気持ちを大切にするよ…だからずっと友達として一緒にいてほしいな…」
「ミク…ありがとう」

オレはミクにそう言われて少し胸がむず痒かった。
少しだけ落ち込んだりもしたが。
するとミクは人差し指を顎にトントンとしながらうーんと唸ってこう言った。

「私レンくんが恋してるのは分かってたけど」
「ば、バレバレ⁉」
「うんとっても分かりやすい、でも違う子だと思ってた」
「はぁ⁉」

ミクは思ってもみなかった事を口にしてオレは口をパクパクしながら聞いていた。

「例えば…レンくんといつも一緒にいる大きなリボン付けた子とか!仲いいなって思ってた」

とミクはニコニコしながら言った。
オレはミクの話を聞いて連想するとあるヤツを思い浮かべた。
間違いなくリンの事だ。
そう思ってオレは絶叫した。

「あ、アイツはオレの幼馴染だ…!というか幼馴染に恋するなんて変だ…し?」
「え?でも私の好きな人も幼馴染だよ、学校は違うけど」

オレはもう頭が爆発寸前だった。
リンなんか今まで一度も恋愛対象で見た事なんてないし、リンでオレの事を男だなんて思ってない。
リンの理想は優しくて面倒見があって背の高いかっこいい大人の男性とか言ってたし。
オレはこの中に全く当てはまらない訳で…ってどうしてリンの理想にオレが当てはまらなきゃいけないんだ。

「ふふっレンくんの今の顔『恋してます』って顔だよー?もしかして好きな子思い当たったりしてー?」
「ちょ…からかうなし!」

ミクの意地悪そうな顔を見てオレは余計に顔が火が出るように熱くなった。
マジでリンなんかに…ってあれ?

そう言えばリンと昨日話したっけ?
というか最近姿すら見ていない…いや、リンに避けられてる気がした。
もしかしてオレを気遣ってくれてるのか?
いやリンはそういう時はお節介するヤツだから余計に絡んで来るだろう。
じゃあオレがリンに何かしたか?
毎日デカリボンとか言って拗ねたのか…それも違う筈だ。
リンはそんな事で怒る器の小さいヤツじゃない事は一番オレが分かってる。

というか
どうしてリンの事ばっかり考えてるんだ?









「レンくん?」
「あ、ごめんボーッとしてた」

ついさっきまで『ミクに告白してた時の事を思い出してました』なんて言える訳なくてとっさに誤魔化した。
案の定ミクに怪しまれずに済み安心していると

「そういえばさっき溜め息つきながらポスト見てたよね」
「うわ、見られてたのかよ」

ミクが唐突に言ってきたので見られた事に恥ずかしくなった。

「ポスト見てなにしてたの?あ…もしかしてラブレター来てたりして!」
「だったら溜め息ついてないし逆に喜んでるよ」
「なんだー、じゃあなにしてたの?」

とニヤニヤしてくるミクにオレは我慢出来なくなって

「はいはい!オレの事はいいからさっさと学校行こうぜ‼」

とミクより早く歩いて学校の門をくぐった。
後ろから待ってよーと聞こえたけど聞こえない振りをした。

ポスト見てた理由なんて教える訳ないだろ。


こうしてまた今日も一日が始まる。

半年前までは毎日が輝いていたのに今は全く輝いてないし楽しくない。
作り物で出来たダイヤモンドが明かりのない所で虚しく輝いているようだった。


オレはひと気のない昇降口に行くと毎日持ち出している『あるもの』を制服ズボンのポケットから大事に取り出した。

あるものーーリンがこの町を出て行く前に落としていった脆いクローバーを加工したしおりだ。
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