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□第三章
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数分間、二人の体感時間にして約1時間が経ったその時、No.5は口を開いた。
「No.1の決め台詞。『KND、」

「…戦闘配置に着け!』?」
我に返ったが、それって決め台詞?と首を傾げつつ答える王子もといNo.2。
仲間に出会って即確認に及んだ判断能力が如何にもNo.5らしいけど…こんな時は感極まって抱き着いたりとかしても良いんじゃないかな…。
「本当にNo.2なんだね。えっじゃあどういう事…?あたしは夢の中で今No.2に会ってんの?なんだか変な感じだなぁ…」
ぶつぶつと眉をひそめる彼女を見つめていると、不意にこちらに視線を向けられた。
「あんた今まで何してたの?」
「…あ、うん。なんか気が付いたら凄いでっかいお城みたいなゴージャスな建物のベッドで寝ててさ、」
感動的な再会シーンは無いままなんだ…夢で位素直なNo.5に会っても良いと思うんだけどなぁ…。
頭の中でぼやきながらNo.2は続ける。
「周りに沢山大人が居て僕の事を王子王子呼んでくるし、こんな服着てるし、まさか大人が僕を罠に嵌めたんじゃないかと思って。慌ててこっそり逃げ出したら森に家があったから、匿って貰おうと思ってノックしたんだけど…」
尻切れトンボな返答を、腕組みしながら聞くNo.5。素っ気ない態度であったが、心中ではNo.2の身を案じていた。
「まぁ頼んだらお菓子でも何でも貰えたのは良かったかな」
…前言撤回。
「本っ当あんたは…」
「No.5は?」
「あたし?あたしは…」
気付いたら森にいた事。知能指数の低そうな七人の小人に出会ってここがその人達の住み処らしい事。空腹だったのでスープを振る舞ってもらった事。
それらを話し、先程思い出しかけていた事を口にする。
「そうだよ、この夢まるで『白雪姫』の世界だ」
「『白雪姫』?あの童話の?」
No.5はこくりと頷いた。
「そしてあたしはこれから悪い魔女に毒林檎を食べさせられるはずなんだ。王子であるあんたが来たのは予想外だったけど」
それにしても童話の姫に自分を当て嵌めた夢を見るなんて、滑稽な話だ。『白雪姫』も偶然覚えていただけで、別に好きじゃあないのに。
「はぁ…こんな夢なら早く覚めてくんないかな…」
「僕はもうちょっといたいな」
呑気にそんな事を言うNo.2に流石にNo.5は怪訝な顔をした。
「なんだってそんな事…」
「だってそれ、」
言ってNo.5を指差した。
「可愛い格好のNo.5が見られ」
ゴッ。
「痛ッッ」
No.5のハイキックが見事にNo.2のこめかみに決まった。堪らず口をつぐみ、頭を抱えて屈み込む王子。それを見ながら御下げをかき上げる少女。なかなかにシュールな状況である。
「……う…脳が揺れた…」
「全く…、寝言は夢で言うもんじゃな………え?」
突然No.5はハッとした様子になった。
「今…あんたなんて言った…?」
何か変なことを言っただろうか?
「脳が揺れた?」
「その前!!確かあんたこう言っただろ、」

「「『痛い』…!?」」
夢の中では痛みを感じない、言わずもがなの常識である。にも関わらず、No.2は痛みを感じた。二人共違和感に気付き、互いに見詰め合う。
「どういうことかな、これは夢じゃない…?」
「随分とリアルな夢とは思ってたけどさ…。でも夢じゃなかったら、今あたし達に何が起きてんの?」

ドンドン!!
突如響いた鈍い打撃音に二人は音源である扉を振り返る。返事をする間もなく、安易な造りの鍵を抉じ開け、筒状の帽子に派手な軍服のいかにもな兵隊が侵入してきた。
留守番を頼まれた以上この家を荒らされるのは困る。No.5は嫌そうに顔をしかめた。
「いきなりなんだよあん…」
「王子ィィ!!探しましたよ!!!!」
叫び兵はドアの真ん前に突っ立っていたNo.2にしがみついた。

「……あっ僕のことか」
「はぁ…そりゃそうなるよね」
そういえば今は現実でないとは言え、No.2は一国の王子なのである。こんなところをほっつき歩いていたら、それは大事だろう。
今の状況について話し合いたいが、仕方ない。ここは大人しく戻るべきだ。
そう判断しNo.5は、マント越しにNo.2の背中を押した。
「とりあえず今は様子を見るしかないよ。また落ち合ってその時詳しい話をしよう」
「う、うん…じゃあ行くね」
引き摺られていくアレが王子なんて、子どもの夢を壊すようなことをKNDである彼がしていいのかとか思いつつ、渋々といった表情のNo.2を見送る。荒々しく扉を閉じられ、兵が文句を言う声が遠ざかって行った。

「はぁ…」
疲れを感じてNo.5は、先程スープを飲む時に腰掛けていた椅子へと体を戻した。
なんか夢?の中に来てからというもの喧しい人が多いなあ…。やっぱりとっとと帰りたいよ…。
はぁ…と3度目のため息を吐いて、先程のNo.2の言葉を思い出す。

『可愛い格好のNo.5が見られたから、もうちょっといたいな』

「どんな口説き文句だよ…」
呆れて頭を抱えるNo.5。ああいう風に扱われるのは苦手だって知ってるはずなのに…わざとやってんのかな?
(でも…)
「No.2もこの世界に居るんだ…」
口の中で呟いて、No.5は顔を上げる。その表情は多少の憂いは見られるものの、喜びでほんのり色づいていた。
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