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□第一章
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心地好い草の香りにNo.5は目を覚ました。…覚ましたはずである。
「なんだよ、これは…」
驚愕して慌てて身を起こした彼女は、自然と云う名が相応しい、美しい森の中にいた。鳥は歌い、青葉は風に揺れ、兎や栗鼠といった小動物は彼女のもとに集まってくる――まるで夢の中のようなところだ。しかし――

「ここは、どこだよ?」

そうである。彼女はいつも通りツリーハウスにいたのだ。こんなところには来ていないし、見たこともない。
「あたし…もしかして本当に夢の中にいるのか?」
はたと自分の姿を見ると可愛いらしいドレスを身に纏っていた。ああこんな状況が現実なはずがない。これはきっと夢なのだ。
それにしてもリアルな夢だ。夢の中というのはこんなにも感覚的なものだったか?香りや感触、五感を刺激するそれらが現実のそれにしか思えない。
「…まぁいいか、なったもんはなったんだ、深く考えても仕方ないね」
なんにしろこんな体験はそうそう出来るものじゃないだろう。どうせなら楽しもうじゃないか。
立ち上がり衣服に付いた草や土を払う。髪の乱れも整えて。

「よしっ」

…さあどうしようか。いざ何かをしようとすると特にすることがない。
肩によじ登ってきた栗鼠を指先で撫でつつ路頭で迷っていると、なにやら軽快な歌声が聞こえてくる。2、3人ではない。結構な人数だ。
「この声は…大人?」
高いが強いノイズがかかっていて、複雑な声。
大人は敵だ、聞こえる元を睨みつつ腰元に仕舞ってある武器…がない。まぁ夢だし仕方ないか。とにかく茂みに隠れ、少し身をのり出し様子を伺う。
すると一筋の小道を綺麗に並んで軽やかに行進する7人の小人が見えた。声の主は彼らだろうか。それにしても小さい。No.5は女子にしては背が高い方だが…彼らは小柄なNo.3やNo.4よりも確実に小さかった。しかもおっさんのくせに何だろう、このテンションの高さ。まるで幼稚園児だ。
拍子抜けして身を隠すのが遅くなってしまった。先頭の一人がこちらに駆け寄って来る。思わず身構えた、が、

「おやおや、可愛らしい女の子だ!」
「なんだって?」
それを筆頭にワイワイと群がる小人達に揉まれて、それどころではなくなった。
「わぁっなんて美しい子なんだろう!!」
「あの城に住む悪い魔女なんて目じゃないね!!」
「わ…っ、ちょ、ちょっとあんたら!!こらっ離れろ!くっくるし…」

No.5の命の危機を感じ取ったのか慌てて散り散りになる7人。悪い奴らではなさそうだが(こんな見た目も中身も子供のそれと大差ないのに、無駄な心配をするだけ骨折り損だろう)、天然過ぎて自然災害であることが分かった。
夢の中でまで精神年齢の低い大人の相手をするのか…。自分の不幸加減に気が滅入り、はぁ〜と嘆息すると、気が抜けてしまったのか腹の虫までぐうぅ〜と間抜けな悲鳴を上げた。恥ずかしさに頬を染めるNo.5。
「……」
「嬢ちゃん、腹減ってんのかい?」
「よかったら僕らの家へいらっしゃい!!」
「最上級のおもてなしをするぞ!!」
気さくにそう言った小人A、B、Cに、少し間を空けてNo.5は頷いた。とたんに小人達は皆うれしそうに騒ぎだす。
そんな彼らを見て、まぁこんな夢もたまには良いかと思い直す。ただ…

「それじゃお嬢さん、行こうじゃないか!!」
「さぁ皆で歌おう!!」

(ただ、この世界、いつかNo.3があたしに読んでくれた話にそっくりなんだけど…。なんて本だったっけ…?)

違和感を感じつつ、No.5は7人の小人と道を共にした。
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