願い事を一つ

□-新神さんと魔法とランプ-
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物心ついた頃に、ようやく幽霊と生きている人間を見分けられるようになりました。
高校生になった今では幽霊と話をしたり遊んでやったり、成仏するのを手伝だっています。


「あー、めんどくさいなぁ」

陽は心の底から出たような溜息を吐き、大きな欠伸を一つ。

と、そこで。

「うん?」


陽が住む町のゴミ捨て場。
その中の積み重なるゴミの間から、少し見える濁った金の色。

偶然通りかかったゴミ捨て場で、
偶然目に入ったゴミの中に、
陽は無意識に手を伸ばしていました。

がしゃ、がこん。

幾つかのゴミが崩れる音がして、陽は錆びて汚れた一つのランプを手に取りました。

「うわ汚…」

『なんじゃ、失礼な人間もいたものよ』
「!?」


驚愕し、陽はランプを落としそうになりました。
手に持っているランプから声が聞こえたのです。
陽は今まで、建物や人に取り付いた幽霊を見た事はありました。

けれど、
(ランプに取り付く幽霊なんて見た事ない…)

幻聴か、疲れか。
そう無理矢理納得し、陽はランプを元あった場所に戻そうとしました。

と、そこでまた、

『我の主人は何時になったら戻ってくるんじゃ…』
「うわああ!!」


今度こそランプの声に驚き、ランプを落としてしまいました。
がこんと鈍い音がしてランプが地面を転がっていきます。

ゆっくり、ずりずりと音がするくらいゆっくり、陽は後退りをしました。


「しゃ、喋った?いやいやいや…気のせいだよね」

『ん?もしや我の声が聞こえておるのか人の子よ』

「気のせい、うん。疲れてんだよね。帰って寝よう」

聞く耳持たず状態の陽は早足でゴミ捨て場から離れて行きます。
焦ったのか、ランプは必死に叫びます。

『待て待て人の子よ!我の声が聞こえるならこちらに来い!』

「あ、英語の宿題終わってなかった…」

『あああ待て!待たれい!待って下さい!我の話を聞いてくれえええ!』


人はわけの分からないモノに出くわすと、恐れをなして逃げるか、興味を持ち関わろうとするかの二択なのですが、陽はどちらかと言えば前者のタイプ。
だからランプから逃げようとするのは彼女にとっては至極当然の行動なのですが、

『頼む!お願いじゃ!やっと我の声の聞こえる者と出会えたというのに…どうか我を助けてくれ!!』

「…はぁー…めんどくさい…」


陽は足を止めました。
彼女は、面倒事には首を突っ込まず、平和に生きるのが願いでした。
けど、それは難しい願いです。

なぜなら彼女は、かなりのお節介なのですから。


「あー、えーランプさん、ランプ君?私に何か用ですか」

『我はそんな名前ではないしましてやランプでもないわ!』
「ランプじゃん」

『ぐっ…蓋が閉まっているのか外に出れぬのよ。人の子よ、蓋を開けてはくれぬか』


さっき落としたランプを拾い上げ、陽は蓋を開けようと力を込めます。
けどランプの蓋は錆びついて固くなっていたので中々開きません。

「うぐ…普通こういうのってランプ擦ったら出てくるっつー話じゃないの…魔人的な何か出るとか…!」
『フン、おしいな。我は魔人ではなく…』


ランプが何か言おうとすると、突然がぱっ、とランプの蓋が開きました。
あまりにも力を込めていた為、陽は反動で後ろに転んでしまいます。
蓋が開くと、ランプから白い煙と共に何か人影が見えます。


『礼を言うぞ人の子、我は…げっほごほ!がはっ』


かなり古いランプだったので、埃がかなりつまっていたようです。
咳込んでいる誰かは、鬱陶しそうに埃をどけました。

『我はウィチカ・フェっ、ごほっ…アリーテール・アクアっナイ…げほっ…ト・ノクターンランぶはっ…プじゃ!』

「フェーゴッホらんぶは?」
『違うわ!』

ようやく煙と埃が全て消えました。

そこにいたのは、一人の妙齢の男でした。

燃えるように濃い、緋色の髪。
髪と同じ深紅の睫毛、深紅の瞳。


『我は、ウィチカ・フェアリーテール・アクアナイト・ノクターンランプ』

あまりに長く聞き取れない名前に陽は驚きました。
もちろん、彼の美しさにも圧倒されていました。

ウィチカ・フェアリーテール・アクアナイト・ノクターンランプは、それが当然だというかのように、艶やかにニイッと満足げに笑います。

『驚いたか人の子よ。当然じゃ、魔法使いの色気は強いからのう』
「ま、魔法…?」

彼女は幽霊を何度も見た事があります。
けれど、魔法なんて一度見た事も聞いた事もありません。

お伽話の世界でしか聞いた事がないような言葉に、陽は目を丸くして、呆然と立ち尽くす事しかできませんでした。
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