Boys
□椿
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──どうしよう…
誰もいなくなった部屋の中で、棗は一人壁にもたれて放心していた。制服は乱され、しかも情事の白液の跡が生々しく染み付いている。
ふと肌寒くなって身を震わせた。何も纏っていない下半身。己の淫蜜と宝賀が施した薬品のせいで、足の付け根が見るも無残に濡れていた。
(気持ち悪い…)
黙って座っていても埒が開かない。床に手をつき、立ち上がろうとする。
「あ…っ」
うまく力が篭らなくて、棗は潰れるように倒れ込んだ。
腰が重い…己の青臭い蜜の匂いが鼻をつく。
「……う…っく…」
惨めな自分の醜態に、棗はしゃくり上げてまた泣き出した。
どうしてこんな目に遭わなければならないのだろう…わけのわからない手紙に悩まされ、クラスメイトに裏切られ、担任に襲われ脅され…
…泣くしかないんだ。
死ぬか泣き寝入りをするか──確かにそうするしかできないんだ。
だから泣くのを選んだ。死ぬのは怖い。命を絶つ勇気なんてない。
…もう疲れた。
少しだけ休んでから、家へ帰ろう。何事もなかったように──
──ガチャ
「あ…」
彼と目が合った瞬間、絶望に全身が脱力するのを感じた。
「なっ…高森!?どうしたんだよ、お前、それ…っ!」
当然の如く来訪者は棗の体を見るなり目を剥いて駆け寄った。
「……ん、でも…ない…」
「なんでもないわけないだろ!こんな酷いこと、一体誰が…!」
「……」
宝賀に口封じされている棗は、ひたすら下を向いて黙りこくった。そうでなくても、先生に犯されただなんて、言えるわけがない。
「……まさか…」
ただならないオーラを漂わせ始めた彼を、棗は息が止まる思いで見つめた。
「………ないよな…」
「えっ、なに…?」
恐る恐る尋ね返すと、瞬きさえできないほどの速さで肩をわし掴みにされ、壁に体を縫いつけられた。
「いっ…つ、椿…!?」
「──そんなわけ、ないよな…」
「な…にが…?」
怯える棗。さっきまでの宝賀との一件のせいで、上から覆いかぶさられる体勢に免疫を失っていたのだ。
顔には出ていないが、椿は相当怒った様子だった。
「…とぼけんなよ」
凄みのある低音の声に、半裸の体が凍りつく。
「…!やっ、椿…っ」
全身が硬直した一瞬の隙を突いて、椿はおもむろに棗の両足を掴んだ。