Boys

□手紙
6ページ/9ページ

 棗はまだ痴漢に犯されているのだ。下半身は人に遮られていて春日からは見えないが、表情に出たりでもしたら大変だ。
 降車の波と入れ代わりに乗車の波が押し寄せ、春日は押された勢いで棗とぶつかってしまった。
「つ…っ!」
「っと…悪い、大丈夫か」
「う、うん。平気平気」
 作り笑いの額にうっすらと汗が滲み始める。今の衝撃で痴漢の手も棗の自身を強く握り、ズボンの中で完全に勃ってしまったのだ。
(どうしよう…春日にバレたら、絶対軽蔑される…)
 戸惑う棗の心境を知ってか知らずか、手の動きは激しさを増す一方だ。
(こいつ…わざと…!)
 痴漢は棗の反応を楽しんでいるのだ。犯されながらどれほど平静を装っていられるか試しているのだ。
「電車で会うのって、初めてだよな」
「あ、うん…そうだね…」
 快感を我慢するのに必死で、曖昧な返事を返すのがやっとだ。幸い春日は口数が少ないから、沈黙も許されるし、何とかごまかせそうだと思っていたのだが…
「朝って、ホント人多いよな。学校着くまで30分もこの状態じゃ、気が滅入るよな…」
 どうしてこんなときに限ってこの男は流暢に喋り続けるのだろう。棗は軽く恨みを覚えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ