Boys
□椿
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「……めない…」
息を上がらせながら椿が何か呟くのを、混濁する意識の中で棗は聞いた。額に汗を浮かべながら、怒ったような泣いてるような顔で独り言を言っている。
「認めたくない…認めるもんか…絶対に認めないからな!」
怒気を含んだ叫び声と同時に、律動が力任せの抽挿に変わってゆく。
絶対に認めない──?
なんのこと?誰に対して──
…俺のこと?
俺…何か悪いことした?椿を怒らせるようなこと…した?
それとも──宝賀先生? …もし…そうだとしたら椿は──
『俺じゃねぇよ』
そうだよね…椿はそんなこと考えたりしない。
『俺ならこんな馬鹿なことはしねーな』
そうだよ。絶対にこんなことはしない。
『俺はむしろ、智洋が一番怪しいと思う』
…………そうなの?
『貴方を好きになる予定です』
そんなわけ、ないよ……
…ないよね…?
『君のことが好きだ』
椿は違う…違うよ…
……違うよね?
『──私のものになれ』
違うよね──!?
「やあっ…椿っ…椿ぃ…!」
おぼつかない声で何度呼んでも、椿は棗の言葉を聞こうとしない。
お願いだから聞いて。俺に応えて。本当のことを教えて。
「な…っで…何も…言わ、な…っ」
「うるさい」
どうして怒るんだよ。
どうしたら俺の話を聞いてくれるんだよ。
『こういう時は名前で呼び合うものだよ、棗』
…もしそれが本当なら、椿の名前…名前、何だっけ…
『俺はむしろ智洋が一番…』
東條が呼んでた…。
「…やめ…ち、ひろっ!」
──ピタッ
「……?…」
泣き腫らした目で見上げると、椿は無表情に近い顔で静かに棗を見下ろした。
「………何のつもりだよ、ソレ」
「何って…」
「先生にヤられてるときも名前で呼んでたのか」
「それは…っ、そんなことより話を」
「…蛍一って呼んだのか…棗って呼ばれたのか!」
「椿っ!俺の話を聞けよ!認めないって何のこと?教えてよ!」
「もういい!」
吐き捨てるように椿が頭を垂れたきり、二人の言い争いも絶えた。椿の伏せられた顔が、長めに伸ばした髪に覆い隠される。
繋がったままの状態が苦しくなって、棗は窮屈そうに身じろぐ。すると椿は何も言わず、棗から自身をそっと引き抜いた。