Boys
□椿
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「椿…」
冷え切った己を掻き抱きながら呼ぶ声は、喘ぎ疲れて掠れていた。
椿は目を伏せたまま黙々と制服を脱ぎ、ぶっきらぼうに放って棗の前を隠してやった。
「わっ…そんな、いいって汚れるからっ…」
「気にするな。…風邪引く」
「でもっ…」
もう相手にしないといった様子で、椿はスタスタとその場から離れた。棗は駆け寄ろうと身を起こしかけたが、腰に鈍痛が響いて立ち上がることすらできなかった。
苦悶に呻く棗を肩越しに振り返り、蔑むような目をしながら告げた。
「──先生にはもう二度と関わるな。今度またこんなことがあったら、ただじゃおかない」
凄みを含んだ言葉を残し、出ていこうとした椿を慌てて呼び止める。
「ま、待って!一つだけっ…どうしても聞きたいことがあるんだ」
「……なんだよ」
「…誰に怒ってるの?」
「……」
椿は口をつぐんでしばらく言葉を探したあと、うんざりしたようなため息をつきながら言い残した。
「………………自分だよ」
…また、一人だ。
ダルい体を抱えながら、棗はもそもそと制服を着け始めた。痛いとかダルいとか、治るのを待ってる暇はない。
また誰かに見つかったら…今度こそ終わりだ。
…『今度こそ』?
何を言ってるんだ。もう終わりじゃないか。何もかも。
そもそもの発端は全てあの手紙のせいだ。
手紙さえ来なければ──春日は電車であんなことはしなかった。それまでは、何もなかったんだから。きっかけさえなければ春日だって…
宝賀先生とも、普通の教師と生徒の関係のままでいられた。手紙のことがバレたのは確かに俺の不注意かもしれないけど、それでも最初から手紙なんてなければこんなことには…
椿は…
……。
…椿はどうして俺を襲ったりしたんだ。
確かに椿は正義感に厚い人間で、教師と生徒のふしだらな行為を白眼視するのは当然だ。
でも椿は俺を犯した。全くつじつまの合わない行動だ。
あの時の椿は感情的だった。怒りに任せて俺を抱いたんだ。
『認めない』という言葉も何か特別な想いが含まれていた気がする。
特別な、想い──
着替え終わって椿の制服を手に取ると、目の奥から感情の奔流が関を切った。
「…椿…っ」
自分より二回りも大きいそれに顔を埋め、棗は声を上げて泣いた。
お前も…俺のことを…?