◎silversoul*NLCP

□もしも願いが叶うのならば*土ミツ
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「もしも、願いがひとつだけ叶うのならば、十四郎さんはなにをお願いしますか?」

あれはまだ武州にいた頃。
澄み切った夜空を二人で眺めていた時のことだった。
あいつは突然、こんなとを言い始めたのだ。

「ねえ、何を願いますか?」

俺は何を願えばいいのかわからなかった。
今が幸せだったからだ。
これ以上、ほしい物なんて何もなかった。
今が続けば、それで充分だ。

なんて、素直に言えるわけもなく。

「ねーよ、願いごとなんざ」

目をキラキラさせて返答を待っていたあいつは俺がそう言うと、なーんだ。と残念そうに溜息をついた。

「じゃあさ、お前は何を願う?」
「私ですか?」
「そう、お前は何を願うんだよ?」

自分で話題を吹っかけてきたにも関わらず、あいつは悩みはじめた。
しばらくたつと、あ!と閃いたように俺に向き直り、

「私の願いごとは、
これからも、みんなが変わらず、幸せでありますように。
です」

と満面の笑みで言った。
それはそれは本当に幸せそうに、あいつは笑った。

「…お前は、今が幸せか?」

と、俺が聞くと、

「はい。
とっても」

と答え、また笑った。

「十四郎さんも、何かお願いごと、作っておいた方がいいですよ」

「どうして?」

「だって、もし本当に叶う時がきて、何もなかったら寂しいじゃないですか」

だから、ね?

「作っておいてください。約束ですよ」

俺の手をそっと握りながら、
あいつは俺の顔をじっ、と見つめた。

「分かった、約束な」

耐えきれずに反らすと、あいつは一瞬不思議そうな顔をし、また笑みに戻った。

幸せ、だった。


月日は流れ、俺はまた、空を見上げていた。
星がまだ薄ら見える、朝焼け空。
その星はあまりにも儚く、お前のようだ、と思わず考えてしまう。

「願い事、できたよ」

俺は星に向かって話しかける。

「もしも、もしも願いが叶うのならば、
俺はもう一度、お前に会いたい」

そして、俺は、お前に伝えたいんだ。

「愛してる、ミツバ」

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