夢小説モノ

□episode3〜「ありがとう」
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バルクホルンの朝は、またあの夢から始まった。昨日も同じ夢で覚めた。
「なんで今になって」
バルクホルンはうつむいて絞り出すように呟いた。


まだ日が完全に昇り切っていないこの時間にトルーデは海に来ていた。穏やかな細波、まだ暗い海、それを眺めていた。
ミーナに言われた記憶がないということ。確かに何も思い出せない。しかしトルーデは記憶がないという実感がない。記憶喪失なら当然かもしれない。
「……」
無表情のままトルーデは海を眺めていると海の向こうから何がこちらにやって来る。
目を凝らして見るとそれは小さい女の子だった。足に何か履いて空を飛んでいる。それに手にはその小さい女の子には不釣り合いな大きな何かを持っていた。
「あの子……」
女の子の姿がはっきりと見えてくるとトルーデは見覚えのある子だと気付いた。
自己紹介のとき後ろの机で枕を抱いて寝ていた子だった。
その眠り少女もこちらに気付いたのかこちらを見る。眠そうな顔をしているからだろうか表情は無表情だった。その子は少しの間、トルーデを見ていたが、すぐに目線を真っ直ぐ向いて基地の方まで飛んで行ってしまった。
「こんな朝早くどうしたんでしょうか」
トルーデは呟くとお腹が鳴った。昨日はあまり夕食を食べていない。「帰ろうかな」
トルーデはそう言いながら基地へと足を進めた。
 

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