魔の預言者 本

□第十三話
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小さい頃から、俺は自分が他の奴らと違うって知ってた。



「ふ――ッ、ふ――ッ」



足元に倒れている同年代の男の子。鼻は変形し、血だまりができている。



「ぎゃぁあああ!はながぁあ!!」


「いたいよぉおお!」


「きゃぁあ!」


「園長先生!園長先生…」



辺りに飛び交う悲鳴、脅える声。全てが耳障りだった。



「り…燐くん落ち着いて、こっちへ来なさい。ま……「うるせぇ!」ひっ」



大の大人でさえ、脅えて手も出せなかった。



「くんな!こっちにくんな!!」



養父である藤本獅郎がついたときには、辺りは悲惨な状態だった。



「…燐!」


「と…とうさん……!」


「…相手の子は鼻と腕の骨が折れて苦しんでるぞ!」


「おれはわるくない!あいつがおれをカゲで“アクマ”っていったんだよ!“ばけもの”だって…」


「お前が悪い!!」



いくら言い訳をしても、聞き入れてもらえなかった。自分を信じて、受け入れてもらえない気がして余計むしゃくしゃした。



「グォおおオ!!」


「なんて顔…!どうやったらあんな子に育つの」


「本当に悪魔みたいな顔…!」



女がそんなことを呟いているのが、耳に入った。





…おまえもおれをアクマとよぶのか!!!





気がついたら、獅郎が目の前に立っていた。そのまま抱きしめられる。



「グルルあ"あ"あ"あ"あ"!」





ドッ





「ぐッ……う……あ……」


「!!」


「…んなーんちゃってウッソォー!!ビビったか!」



腹に思いっきり拳を叩きこんだにもかかわらず、父さん……獅郎は平気な顔して笑っていた。



「…燐、聞け。このままじゃお前、いつか一人ぼっちになっちまうぞ…!」



耳元で言われた言葉。



「何かの…誰かのために、もっと優しいことのために力を使え。
俺はお前に将来仲間にたくさん囲まれて、女にモッテモテのかっこいい人間になって欲しいんだ!」


「なんだよそれ…どうすればそんなのになれるんだよ」


「もがけ!もがいてりゃ、そのうちふと振り返ったらいつの間にかそうなってるもんだよ。………って駄目だ。救急車呼んでくれー!」


「え―――!?とうさん!」



結局獅郎は肋骨を3本も折る大怪我を負った。それでも彼は、燐の前で弱音を吐かなかった。





俺はいつか親父のようになりたかった










燐の気持ちはよく分かる


オレも似たような境遇だったから


生まれてこのかた、両親なんて知らない


愛情のある、温かい家庭も知らなかった


ココロなんてものも、感情なんてものも


知らなかった


…そう、過去形


燐たちのおかげで、心は順調に戻りつつある


獅郎さんのおかげで、愛情を知った


燐と雪男のおかげで、感情を知った


しえみや出雲たちのおかげで、友情を知った


無情だったオレに、情を入れてくれた




  
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