魔の預言者 本
□第十五話
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アマイモンの掛け声とともに、こちらへと向かってくるベヒモスという名の子鬼。
「ボヤッとするな!」
ベヒモスに一撃入れたシュラは、短く指笛を噴いた。途端、地面から蛇が現れ、昼間描いた魔法円が光り、結界が張られた。
「魔法円を描いたときに中に居たものは守られ…それ以外を一切弾く、絶対防御壁だ。まあ、しばらくは安全だろ」
「絶対防御壁…!?」
「これも訓練なんですか?いくらなんでもハードすぎじゃ…」
「そんなことより、さっきのは何なんですか!?」
「訓練は終了だ。今からアマイモンの襲撃に備える」
その言葉に、周りに居た全員(宝を除く)の表情が固まった。
「アマイモンって…八候王(バール)の一人の…“地の王”ですか?さっきのが!?」
「そうだよ。祓魔師程度じゃ到底敵わない超大物だ。だから防御するってんだろ?ホラ、並べ!」
並んだ順に聖水をかけていくシュラ。しかし、その手は海と燐のところで止まった。
「…よし、まあこれでいざ何かあっても、体が乾ききるまでダメージを軽減するだろ」
「…!?奥村と如月にはなんもせえへんのですか?」
「あー…こいつらはなんつーか、聖水アレルギーでさー」
「聖水アレルギー!?」
苦しすぎるい言い訳で何とか切り抜る。隣では出雲が携帯を使って連絡を取ろうとしているが、つながらないらしい。
「おい…さっきの奴、理由は知らねーけど、多分俺が目的なんだ!!」
「知ってるよ。まぁ、安心しろ。この障壁は地の王だろうと、並大抵では破られない作りだ。…だが奴も、今回は多少計画的みたいだしなァ。
次に地の王が仕掛けてきたときは…お前はすぐに降魔剣と海と一緒に此処から離れろ」
手渡されたのは、勝って取り返せと言われたクリカラ。
「どうしたんだ?ホレホレ、あんなに返せ返せって言ってたくせにィー♪」
「お前は俺の炎を押さえたいんじゃないのか?“炎を出すな”って忠告しただろ!!」
「うるさいよバカ。一応忠告したのに出しちゃったじゃん、お前。にやっははははー」
「……!」
ごもっともだ。
「…つまりだ。お前みたいな奴がこれから炎なしで、どうやって戦うんだ?地の王は雑魚じゃないぞ。考えてみろよ。え?考えろ!!」
突然真剣な雰囲気をまとうシュラ。その目は真剣そのものだ。
「如月さん!?」
「ちょ……アレ……!?」
突然子猫丸の叫ぶ声が聞こえたかと思うと、魔法円の外へと歩く海の姿があった。
『(体が……言うことを気かねぇッ!)』
《海!》
《おい、海!?》
ゼルとフェンリルが叫んでも、戻ってくる気配すらない。ただ、両手を血が滲むほど強く握っていた。
「おいおい!何やってんだよ!(ってあれ、寄生虫か…!?)」
気付いた時には既に遅い。魔法円の外に出た海は、側にやってきたアマイモンの腕の中。
「その娘に何をした、アマイモン!」
「ん?チューチの雌蛾に卵を生み付けてもらいました。孵化から神経に寄生するまで随分時間がかかりましたが。
これで晴れてこの女…魔の預言者は、ボクの言いなりだ」
その場から跳び去ったアマイモンの後を、追いかけていく燐。しかし、その前にベヒモスが降り立つ。
キィンッ
「行け!!アタシも後を追う」
「く……!」
「奥村!!」
「お前らは死んでもその障壁から出るなよ!!」
「そんな……」
シュラからクリカラを受け取り、走り去っていく燐。その姿に、竜士は言いようのない怒りがこみ上げてくるのを感じた。
「待て!!テメー、この間と言い何なんだ!!海をどうする気だよ!!」
アマイモンを追いかけていた燐は、ようやく追いついた。体力だけは宇宙並の彼だからこそ、追い付けたのかもしれない。
「どうしましょうか。…うーん…そうだ、この女はボクのお嫁さんにしよう。そうなったら、早速契約しなくては」
いい案だと言わんばかりの、嬉しそうな声。
「はぁ!?」
一方燐は、怒りを含んだ声だ。
「“アナタは病める時も健やかなる時も、ボクを愛し、ボクを敬い、ボクを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを誓いますか?”」
『……………』
アマイモンの問いかけに、うんともすんとも言わず、首を縦にも横にも振らない海。
「どうしました?」
その時だった、一瞬海に炎が灯ったかと思うと、海の目に光が灯った。